第七話 始まり
「ピピピピピ ピピピピピ……」
「んぅ……」
手探りで目覚まし時計を止める。
昨日も遅くまで小説を書いていたからまだ眠たい。
二度寝したい誘惑をなんとか断ち切って、ベッドから脱出した。
「お母さん、おはよう」
「おはよう、リリス。誕生日おめでとう」
「ありがとう」
待ちに待った、13歳の誕生日。
今日で私も聖人になれる。
「朝ご飯すぐに出すわね」
「はーい」
椅子に座ってぼーっと待つ暇もなく、お母さんが朝ご飯を持ってきてくれた。
「炊き込みご飯だ……! 嬉しい!」
今日の朝ご飯は、鶏とキノコの炊き込みご飯にお味噌汁、焼き鮭にお漬物。
お母さんが作る炊き込みご飯は私の大好物だ。
「ふふ、喜んでもらえてお母さんも嬉しいわ」
炊き込みご飯の良い匂いに眠気が吹き飛んだ。
今日も美味しいご飯を食べられることをミカ様に感謝して。
「いただきます!」
いつもはお味噌汁から食べるんだけど、今日は炊き込みご飯から食べちゃおうっと!
「はふはふ……ん〜美味しい!!」
口の中でふわっと香るお出汁の味が堪らなく好きだった。
「お母さんの炊き込みご飯が一番好き!」
「ありがとう。作り甲斐があるわ」
朝ご飯が炊き込みご飯ということは、お弁当にも入ってそうだな。やった!
あっという間にお茶碗の中が空っぽになったので、おかわりした。
今日も幸せだ。
——————————
朝ご飯を食べ終えた私は、ルンルンで洗面所に向かう。
今日はポニーテールにしちゃおうかな。
ふと、胸元の小瓶に目がいった。
小瓶に入っているガラス玉は、まだ白いままだ。
お母さん達はお昼にでかけた帰りに私と会ったって言ってたから、もう聖人してても良さそうだけど……。
まぁ、いっか。そのうち聖人するでしょう。
もしかして私も
ぱぱっと準備した私は、キッチンでお弁当をカバンに入れた。
「お母さん、行ってくるね」
「いってらっしゃい」
玄関をでると、タクミが家の前でもう待っていた。
「おはよう、リリス。誕生日おめでとう」
「ありがとう!」
「これ、誕生日プレゼント」
タクミが小さな封筒をくれた。
「ありがとう、家に帰ってから開けるね!」
「おう」
タクミといつものように他愛のない話をしながら歩いて、聖人することもなく学校についた。
自分の席に座って、小瓶を触る。
ひんやりとした小瓶。ガラス玉も、綺麗な白色だ。
ふぅ……。本でも読んで落ち着こう。
「おはよ〜! リリス、おたおめ!」
結局集中できないまま、ハヅキが登校してきた。内容が全然頭に入ってこなかったな。
「ありがとう」
「はい、誕プレだよ」
そう言って渡されたのは、星やハート、鳥といったいろんな形のクッキー。
「クッキーだ! これ、ハヅキが作ったの?」
「そうだよ〜。お菓子作るの結構好きだからさ」
プレーンだけでなくチョコや抹茶味もあってとても美味しそう。
「ありがとう! 帰ったら食べるね」
「いえいえ〜」
今日は勉強するわ、と言って自分の席に戻っていくハヅキ。部活で忙しいだろうに勉強も頑張っていて偉いな。
私も頑張らないと。
——————————
1時間目が終わったのでトイレに向かう。
…………まだガラス玉は真っ白だった。
2時間目の授業終わり。
…………まだガラス玉は真っ白だった。
3時間目が終わったのでトイレに向かう。
……まだガラス玉は真っ白だった。
4時間目が終わってお弁当を食べる。
……まだガラス玉は真っ白だった。
5時間目。授業中に小瓶ばかり見ていて先生に怒られた。
まだガラス玉は真っ白だった。
おかしい。
6時間目も終わってもう放課後なのに、ガラス玉は真っ白いまま。
お父さん達から聞いた話を覚え間違えた?
ガラス玉に垂らした血の量が足りなかった?
今は15時30分だから、聖人していないとおかしい。
私もコンジュラーだった?
悪魔が生まれた瞬間に遠くに行ってしまったとか。
帰りにタクミに会えるかな。
どうしよう。
私はなんでまだ人間なんだろう。
わからない。
タクミならわかるだろうか。
人間のままなんて、嫌だ。
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