第四話 幼馴染
翌朝。
昨日は中々、いや、ほとんど眠れなかった。どうせもう起きる時間だし、まだ鳴っていないアラームを止める。ベッドから出ると、ほんのり肌寒い。
リビングに向かうと、お母さんが私のお弁当を作っている所だった。
鼻歌を歌っている。最近流行っているアイドル——ルカちゃんの最新曲かな。家族をテーマにしたドラマの主題歌だった気がする。
「お母さん、おはよう」
「おはよう、リリス。今日は早いわね。……眠れなかった?」
「聖人になるのが楽しみすぎてさ、へへ」
そう笑ってみせ、椅子に座った。まぁ、嘘ではないし。
「今日の朝ご飯は何?」
「今日は肉じゃがにしたわ。今朝は珍しく冷えていたから。今温めるわね」
「ありがとう。今日は寒いね」
ぼーっと待っていると、お母さんが朝ご飯を運んできてくれた。ご飯と味噌汁、肉じゃがにほうれん草のおひたし。
朝から味の濃い洋食を食べる気にはなれないので、いつも和食を作ってもらっている。
「美味しそう……!」
私も、お母さんみたいに料理の上手な聖人になりたいな。
「おかわりあるから、たくさん食べてね」
今日も美味しいご飯を食べられることをミカ様に感謝して。
「いただきます」
あつあつのご飯が、全身に染みわたった。
——————————
「ごちそうさまでした」
肉じゃがのおかわりまでして、お腹がはち切れそうだった。
お皿をキッチンまで持っていく。
「お母さん、皿洗いお願いします」
「はーい」
学校に行く準備をするために、洗面所へと向かった。
歯を磨く。
鏡に映る、真っ黒な髪と真っ黒な瞳。
思わず歯磨きをする手を止めて、鏡に顔を近づける。
お父さんもお母さんも、目の色は茶色だったな。
顔を洗って肩より少し長い髪を梳かす。
のぺっとした重たい黒髪。2人は金髪で、髪の毛も細くてふわふわしてる。
ずっと染めてるんだと思ってたけど、プリンになってる所も、髪が傷んでる所も見たことがないな。
いつも梳かしたままだけど、今日は体育もないし、ハーフアップにしよう。
よし、今日は綺麗にハーフアップにできた気がする。後は着替えるだけ。
ふと、着替えながら気がついた。
そういえば、お母さんはスレンダーだけど、私は胸は大きい、というか中学生になってから脂肪がついて丸くなった。
女性の体になった、と言うべきか……。ほんと、何一つ似てないのになんで疑問に思わなかったんだろう。
「お母さん、行ってくるね」
着替えた私は、キッチンで弁当をカバンに入れた。
「いってらっしゃい、気をつけてね」
「うん、行ってきます!」
家をでると、隣の家からも学ランを着た人が出てきたとこだった。
「タクミ、おはよう!」
私はその人に声をかける。
「おはよう、リリス。今日も元気だな」
ほんのり癖っ毛の茶髪の少年——安藤タクミは、私の幼なじみ。小学生の頃から2人で毎日登校していたから、自然と中学校も2人で登校している。
「タクミ、また背が伸びたんじゃない? もう160cm超えた?」
「お前、昨日の朝も同じこと言ってたぞ……俺の背が伸びたんじゃなくてお前が縮んだんじゃないのか?」
「ひどいっ……! 中学校に入ってから全然背が伸びなくなったの気にしてるのに〜!」
今の身長は153cm。小学6年生の頃から中学1年生の一年間で1cmしか伸びなかった。もう4、5cm伸びてほしい。
「あれ。リリス、もうネックレスつけてるのか?」
「そうだよ〜! 聖人になるの楽しみすぎてさ」
いくら幼なじみのタクミにも、昨日の話はできなかった。
「リリスはずっと聖人になるの楽しみにしてたもんな」
「うん! もしかしたら、私も
タクミの首元には、キラリと黄色に輝く菱形の宝石? がついてるチョーカーが。
基本、聖人したら悪魔はガラス玉に封印される。だけど、自分の負の感情をコントロールできる、飼い慣らせる人は封印されずにその人のカタチをして生まれてくるんだって。
コンジュラーはチョーカーを、聖人は小瓶のネックレスをつけているので、首元を見ればすぐわかるようになっていた。
なろうと思ってコンジュラーになれる訳じゃないのに、タクミはすごいな。
「リリスは怒りっぽいから、コンジュラーは無理じゃないか?」
「む〜。タクミが全然怒らないだけだよ~」
少しくらい、自分が特別かもしれないって思ってもいいよね。
「ははっ。まぁ、アビスが現れても俺が守ってやるよ」
アビスはコンジュラーしか殺せない。タクミ以外のコンジュラーを見たことがないから、どうやって殺すのかは知らないけど。
「いいもん! 私だってアビス倒せるようになるもん!」
「そうか。頑張れ頑張れ」
タクミが頭を撫でてくる。同い年の幼なじみっていうより、これだとお兄ちゃんだな。
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