第67話 フィグパイ

便利な冷凍のパイ生地を使ってフィグパイを焼く。手作りのフィグジャムは甘さ控えめのぼんやりした味。そのジャムに白い砂糖とバターを加えてコクを出し、これまたお手製のカスタードクリームを添えてパイ生地で覆う。イチジクと言えばフィグジャム。由里子としては高級食材だと感じていて味も気に入っているのに、フルーツ単体としては嫌いな人がいるらしい。

 フルーツ大好き人間の義史も、イチジクはそうでも無いらしい。改めて何で?と問いかけると、これと言う理由は無いらしく、沢山あるから食べろと強要も出来なくて手をこまねいて諦めるしかない。

 無果実と呼ばれる訳は…

 あの実の様なものは蕾らしく中に雌しべの集団が隠れて居る。要するに瑞々しいフルーツを宿していないところがフルーツ好きにはNGなのかもしれない。フルーツ?じゃないのかも…

 田舎住まいの由里子は、この時期友達に駆り出されてイチジク摘みのバイトに行っている。朝6時からの仕事に旦那様の出勤時間をなんとか調整してもらって早めに家から追い出し、暗いうちに車を飛ばしてビニールハウスに急行する。

 雨が降ってもカッパを着こんで応戦する。由里子はこのレインコートを着て、の作業が妙に好きで全身雨対応、完全防備の潔さが良い。長靴が短くて雨が入ったりすると、さっそくカバー力のあるものを買い足して次の作業を心待ちにする、人から見て絶賛される事のない地味な努力は、やっていて実に楽しい。

 イチジクは秀品とA品、B品、過熟、にシビアに分けられて出荷できないものは残念ながら処分される。『いくらでも持って帰って良いよ!』と言われているのに、そんなに貰っても加工出来ないし、保存も難しい。で、キッチンに篭り、セッセとフィグパイを焼いているこの頃である。

 材料費タダの美味しい絶品のフィグパイを焼いて、いつかセンセーションを巻き起こしたい。などと妄想を抱く由里子なのだ。

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