第58話 今日はランチを食べよう!
大親友の山ちゃんが仕事に行くようになって丸三年が経った。その間久美子は寂しくもランチを食べる相手をなくし、お昼に出かける習慣までもなくなった。何の予定も無い日などたまにはランチでも行きたいなと時間を持て余してしまう。でも山ちゃんは朝から夜までフルタイムで仕事に励んでいるのだから、自分ひとり遊んでばかりはいられないと気を取り直して、洗濯したり季節の衣替えに家をがたがたと這い回ったりしている。
もはやあんなに気の合う友達にはお目にかかれないのだから、すべての楽しみを放棄してしまいたい気分で、今更新しい友達を作るための努力をしたくない。恵まれた暮らしをしてしまうと不幸が襲ってきた時立て直せない。そう思って億劫になる久美子だった。
携帯メールの音がして、久しぶりに山ちゃんから連絡があった。『今日仕事の昼休みにランチしませんか?』それはキラキラと輝いて久美子の心に響くメッセージ。さっそく久美子はOK!の返事を送った。
山ちゃんの仕事場から程近い割烹のお店に出かける。夜は割烹の店だが昼はランチを出す気の利いた店になるらしい。話には聞いていたが、一人で暖簾をくぐるのは気恥ずかしい。
山ちゃんからのメールで『先に行ってたのんでおいて』と頼まれ、久美子は苦手ながらそんなことも言ってられずに一人でお店の扉を開けた。
感じのいいお店は小さいながら、込み入った街中に在りながら、凝った造りの確かに割烹の店だった。入るとすぐカウンターが在り昼間っからビールを飲んでいるお客が一人。久美子が通された部屋は土壁の掘りごたつの部屋で机の幅は狭いがなかなか落ち着いた個室だった。
そのまましばらく誰もこない。二人お願いしますと頼んではおいたがこの先どうなるのだろう?久美子は山ちゃんからの使命が果たせるのかと心配した。その時分になって山ちゃん登場。久しぶりの再開に話が弾む中時間制限のある山ちゃんがそういえば料理が来ないと心配しだした。
積極的な山ちゃんが中居さんに尋ねると、ランチは一種類しかないそうで座った時点でもう二つ注文されていた。それから待つことしばらく、美味しそうな純和風のランチが到着した。
だけど…メニューも無いままこれがいくらのランチなのか見当もつかない。まいいかと腹をくくっていただいた。季節の野菜に、味ご飯、カレイの煮付け、食前酒、その豪華さにドキドキしながら…
後でこれが千円とわかってホッと一安心。また来ようねということになった。
ランチは美味しかった~山ちゃんにまた会えて嬉しかった。とわずか一時間弱の逢瀬。久しぶりに話が弾み割烹「なにわ」を後にした。
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