第57話 雉の鳴く町

 朝早く雉が鳴く。かん高く喉元を締められる様な窮屈な声で鳴く。そろそろそんな季節がやって来る…何時も見かける雑木の横の荒れ地で一度バタバタと羽ばたき合ってお見合いする2羽を見た。あの声は恋の声なんだろうか…

 朝の散歩道は二つ、ひとつは雉の道、もう一つはイチジクのハウスの道。東西どちらの道も田んぼが広がっていてまだまだ多くの自然が残っている。イタチやヌートリアも見かける。イタチは特に可愛い。小さくて細長くて動きが早い。

 雉は飛ぶ。突然、目の前を道路の端から端まで渡るようにパタパタと飛ぶ。飛び魚の様に高くは飛ばず低く放物線を描いて飛んで移動する。

 引っ越して来た頃、この町にもまだ沢山の雑木林があった。最近めっきり減っている。もともと稲沢は植木の街だからそこら中に、田んぼがあれば木が植えられた場所も有って、こんもりとした雑木林を作っている農村地だ。その風景が変わりつつ有る。雑木が減って更地になる。

 ひとつの雑木林の塊からもうひとつの塊へ一っ飛びして移動する姿はバタバタと慌ただしい。鶏より一回り大きいサイズの、ある程度の重量感のものが飛んでいくのだからかなり勇壮だ。一度、運転する車の前を左側から飛び越して反対側へ飛んでいくのを見た。存在感がすごくて野生の一瞬を見たような気がした。

 飛ぶのは雄だけなのか、雌の雉の飛ぶところを見たことがない…大抵羽根も大きくてきれいな色をしている。雌の雉は目立たない小柄で羽根も小さい。番いでいるところに出会ったことはあるが個体でいるところを見たことがない〜雄に比べて用心深いのかも知れない。

 両方が移動すると又同じ個体に出会ってしまうから自然の法則で調整しているのだろうか。鳩やカラスは生涯一夫一婦と聞くが雉はそうではないらしい。

 このところ、雑木が減っている。どこも気がつくとエネルギーファームに生まれ変わっていて農地がだんだん減っていく。そのうち雉の生息区域も無くなってしまうんじゃないかと心配になる。白鷺やアオサギは飛距離も長くどこにでも行けそうだから、田んぼが有る限りなんとなく生き抜いていけそうな気がする。

 でも、雉は遠くに飛べるのかと思う。パタパタと限り有る雑木を飛び交いながらどこまで生き延びれるのだろうかと心配になる。

 

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