第16話 行きつけの洋食屋
毎月行きたいと思うほど気に入っている洋食屋。ちょっとお高いビーフシチューを特別な日には頼みたい。
久しぶりに来ることが出来た。家から1時間。高級住宅街に佇むその店は、お客も何処か落ち着いておしゃれな感じが充満している。
行こうと思えば近く、疎遠になると遠い距離。
味は勿論、店の構えも気に入っている。東の歩道側がガラス張りになっていて温かい日差しが差し込む。隣の席とのスペースも程よい間隔で満足度が高い。何度も足を運ぶ、わざわざ来たい店だ。
店の前にはすでに何人か列ができていて、矢田に車を任せて先に降りると急いで名前を書き込んだ。
表のちょっとした空間に待ち時間用のガーデンチェアーが置いてある。メニュー版の陰と水を打った石の上に置かれた蚊取り線香が、ゆっくりと煙をくゆらせている。
車をおいてきた矢田が、どっかりと腰を下ろしてメニュー版に食い入る。どれどれ今日のお勧めは何だろう。食べるものはたいてい決まっているが一通りメニューに目を通してお腹の空き具合と相談する。
「今日のランチは鶏肉のソテー野菜ソース。アンティパストはどうする?」
いつもながら美味しいもの大好きな矢田がメニューを吟味している。
ヒソヒソと内緒話のように何を食べようか相談するアベック。子供一人と大人が4人いるグループになると、どの組み合わせで夫婦か、そしてどちらの子か?と待ち時間に人間ウォッチを楽しむのも人気洋食屋の味わいだった。
皐月の大好きなランチは焼いたパンに厚めのハムや野菜・モッツアレラチーズの挟まったサンドイッチセットか、いかにも美味しそうな色をしたデミグラスソースのたっぷりかかった鶏肉のソテーランチで、付け合せの人参のグラッセやじゃがいもの焦げた色が好きだった。グラッセは嫌いな人も多いが皐月は野菜の付け合せがたくさんあると嬉しかった。
今日の隣の席は、若夫婦とその父母という感じの4人。父母はラフな服装でこの辺りに住んでいる慣れた雰囲気が洒落ている。母娘で話が弾んでいる。久しぶりに訪れた新婚の娘夫婦と散歩のついでに寄った感じ…
食事の時間は幸せを運ぶ。囲む食卓が豊かな美味しい料理いっぱいなら誰の顔もほころぶ。
行きつけのお気に入りの洋食屋はそんなムード満点で、何時行っても楽しい。周りの人の幸せを横で感じながら食事が楽しめる。最高の時間だった。
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