第13話 お気に入りのデザート

「私は焼き菓子が良いな〜」

 と、美しく並ぶショーケースの中の数々のケーキを物色しながら美穂が言った。

「じゃあ僕はこっちのタルトにしよう!」

 祐樹がよだれを垂らしそうな顔をして、山盛りに盛られた色とりどりのフルーツタルトを指さして言った。初めから決めていたように、何の迷いもなく即座に言った。

 そこは、飛騨高山の宮川沿いにある喫茶店。階下は果物屋になっていて色とりどりの珍しいフルーツが並ぶ果物専門店。その様子から想像を膨らませれば、さぞかし美味しいフルーツタルトにありつけるに違いない。評判では果物をふんだんに使ったパフェも美味しい。らしい…美穂は果物をほとんど食べないので見た目で新鮮なんだろうな〜とか、彩りが綺麗だな〜という感想を持つ。

 フルーツ大好きでヨーグルト大好き、スイーツのためならどんな遠くでも「一回行ってみようか」と勇んで出かける祐樹の探究心に引っ張られて遠くまで遠征する。

 そう云う積極的な女なら話もわかるが、祐樹はそんな甘いもの大好きな男だった。美穂は祐樹のターゲットの店を探し出して隣の席でナビゲーターを務める。

 車に積んである「スイーツ特集」の本は、必読と見出しのついた、保存版と大きな判が押された地域情報誌で、こんな本に惑わされてケーキの美味しい店を探し回るのもどうかと思いながら、出かける度に探し終えた事に安堵する。

 本への書き込みもずいぶん増えた。出掛けた店はマーカーで印をして評価も加える。花丸、二重丸、評価なし。評価なしの店にはこの先二度と行かないんだろうな…

 此処のところどの店も美味しいらしく祐樹の機嫌が良かった。美穂はお店の雰囲気や机や椅子、コーヒーカップのデザインが気になったが、祐樹はひたすらお菓子の出来で判断した。味にうるさい。そう云う奴だった。

「美味い。この桃は絶品だよ」祐樹の感動の声が店に響く。フルーツに興味のない美穂はタルト生地の焼き加減が気になった。「うん、サクサクして上出来。カスタードクリームも美味しい」美味しいカスタードクリームは美穂を幸せにした。

 二つに分けてしまえば祐樹は変な奴。本気でお菓子に入れ込んで休みの度にこうやって探し回るんじゃ、疲れる。

 なのに、嫌いにならない自分を、祐樹に増して変なやつだなあと思う美穂だった。祐樹の毒のない、サラサラした性格が好きだった。曲がりなりにも「君の好きなところでいいよ」と相手任せにしないところも好感が持てた。

 今どきの男は女に振り回されて情けない。日頃そう思っている美穂だから、祐樹に振り回されている自分が気に入っていた。

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