第10話 松ぼっくりを探しに
森岳公園には取って置きの松の木が何本か有り、お化け松ぼっくりをつける。お目当てのその木はとても背が高く、木ノ下に立って首を八十度、痛いほど傾けて眺めても、枝に付いている松ぼっくりの大きさは、遠すぎて普通程度にしか見えない。
ところが、足元に落ちている松ぼっくりを手に取るとその大きさに驚く。比べれば普通の松ぼっくりの4倍はあるだろう。
まだ子供が小さい頃、散歩にでかけた公園で偶然に見つけたこの木は、誰にも知らせたくない秘密の木となった。
12月にクリスマス雑貨展をすることになった瑞穂は、構想を練っていたある日この木のことを思い出して出かけてみようと支度した。
それは露の晴れ間のなんとも日差しの強い日で、顔に日焼け止めクリームを丹念に塗った。
「夏に松ぼっくりなんてあるの?」と子供から一言。それもそうだな〜と思いながらも今のうちにどの木か確かめておきたい。木さえわかれば実が落ちる頃、秋にまた行けばいいかと思った。
場所は漠然と覚えているが、どの木だったかまでは思い出せない。それをはっきりさせようと出かけたのだった。
森岳公園の中は広大な敷地で、知らない間に整備された新しい道が出来、すっかり様変わりしてしまっている。この中のいったいどこにあの松はあったのだろうと途方にくれた。
車でグルグル探して回ったが見付けられない。駐車場に一旦車を止めてゆっくり歩いて探してみた。
公園には家族でお弁当を広げて久しぶりの日光浴を楽しむ人。何かの配達の途中で昼寝をしている自転車の人、ウロウロと歩く瑞穂は場違いで後ろめたかった。
そのうち二本の大きな木が目にとまり半信半疑で近づいた。
松の木だ。確かにあの時見た佇まいに似ている。一本は雄の木でもう一本は雌の木…松の木はこうやっって二本セットで植えるものなのだろうか…雌の木の枝には沢山の松ぼっくりが付いている。でも、遠すぎてこれがあの松ぼっくりかどうか確かめられない。そのうち足元に落ちている松ぼっくりを見付けて感動した。
まさしくあのお化け松ぼっくりだった。
瑞穂は目を皿にして木の周りをうろつく。風にのって飛んでないかと少し遠くまで歩いた。
収穫は三つ。でも、見付けられたことが嬉しかった。確かに此処にあったと、遠い記憶の中におぼろげに有ったものが、こうして現実に形になって現れたのだから…
「夢かと思ったよ…」松ぼっくりを眺めながらつぶやいた。
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