第9話 恐ろしきもの
車のライトを遠目にして一目散に林道を駆け抜ける。川からの水蒸気で辺りは霧が立ち込め、道にはみ出すように伸びる木立が不気味な陰を落とす。
背後に有りもしない気配を感じてしまうと、車の後部座席に誰かいるようで振り向くことが出来ない。
オカルト嫌いな真樹子の苦手は心霊写真や透視の類のテレビ番組。帰りの遅い夫を迎えに出る日は絶対見ないようにしている。一瞬でも見てしまうと運転している間背筋が寒くなり、雨の日や深夜など、何かに出くわしそうな恐怖を感じて運転できなくなる。
一度この手の番組を見てしまい、とうとう迎えに出れず、夫に迎えを断ったことがある。そのくらい日本の霊物に弱い。
子供の頃楳図かずおの漫画が苦手で、毎週少女雑誌を買ってくると、まず目次を調べ、読みたくないページの前のページから話の終わる一枚後ろのページまでホチキスで止めて絶対見れないようにした。それをしないと不安でゆっくり中身を楽しめなかった。当然のことながら扉の絵を見ただけで気分が悪かった。
怖いものを楽しむなんて、ありえない…子供時代だった。
その真樹子が外国のオカルト映画は少しも怖くない。協会や古い館を舞台とした幽霊者も「何処が怖いの?」と思ったことがある。大音量で迫る雰囲気や迫力のある画面にはさすがに心拍数が上がるが、亡霊そのものは怖くない。細菌や宇宙人もそうだった。
恐怖には国民性もあるのかな…
テーマパークのアトラクションも同じで、次々に出てくる魔物や海賊や幽霊には時々笑えてしまうものもある。
ベタベタドロドロする感触の不快さと恐ろしさとは全く別物で、そういったものにはリアリティを感じない。怖さとは不思議なものだ。
子供の頃のトラウマ。多分、外国製の恐怖ものは子供時代見る機会がなかったからに違いない。
それが証拠に夏祭りで入ったお化け屋敷は怖くて今だに入れない。番町皿屋敷も駄目。脳裏に焼きついた恐ろしさの原型は形を変えないで今も存在する。
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