第5話 恋い焦がれた人
最初の恋に気がづいた時、人はそれを初恋という。気づかなかった憧れや思われていた状況は初恋とはならないので記憶に残らない。それは片思いという向こう側の悲しい思い出。
最近は人の迷惑も顧みずそれを押し付ける不届き者が多いので、淡い美しい思い出にならないでどろどろした、おぞましい犯罪になる。
人を愛する行為は一方的な自分との葛藤だと優子は思う。相手がイエスと言わない以上、またイエスと言ってくれたとしても、愛は太陽のように暖かくただ注がれるべきで見返りを求めるものであってはならない。
優子はそういう恋を長年続けてきた。言い出すのが怖いわけではない。この恋を成就させようという積極的欲求が乏しかった。
恋をしている自分が好きだった。優しい気持ちになれる瞬間の心地良さを誰にも邪魔されたくなかった。
その優子に恋をする男が現れた…
優しい。腰の低い男で優子も初めは相手の気持ちに気ずかずに好意を持った。そのうちその男からの愛情を感じ始め、そのとたん、少しずつその男に対して傲慢になっていく自分に気がついた。
自分より年下の男に対して…好かれているという優位に立った自分だから…言葉が乱雑だったり、誠意のない対応をしていると感じた。
何故だろ…優子は自分の気持ちをかき乱しているものが何か知ろうとした。知りたいと思った。でも、そこに到達するには経験がなさすぎた。
ずっと恋い焦がれていた男から「君は以外にはっきりした性格なんだね。今まで気づかなかったよ」とある席で言われた。それは、優子に恋する男との噂話を聞いているという意思表示に取れた。
優子は言い訳がましい気持ちが沸き上がってきたが、ずっと恋い焦がれてきた男に誤解されたくなくて曖昧な表情をした。はっきりと否定することが変に肯定的に映るんじゃないかと心配した。
恋い焦がれていた男は相変わらず爽やかで仕事をしている時の張り詰めた顔が魅力的だった。
長い間気が付かなかったがどうやら男には恋人がいた。それもよく聞いてみれば同期入社の坂本だった。
優子は、同期の坂本に聞いた。「いつから付き合ってるの」坂本は曖昧に答えて笑った。「優子のこと好きだったみたいよ。かなり昔に」それを聞いて優子は驚いた。二人は決して交わることのないレールのように、お互いを意識しながら交わらない時を過ごした。
優子は苦笑いした。そして、長年の初恋に終止符を打った。
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