第17話 大王の栄光と孤独

 黒の貴公子は、従わない貴族達や王党派を打ち破り、戴冠して、新たな王国を築きました。


 王国の名はフランドル。

 後世では前フランドル王国といわれる国です。


 彼は、あの火の中から助かったのです。

 顔の左半分は焼けただれ左腕を失いはしましたが、生き残ってしまったのです。



 新たなる王は奮闘しました。


 自らが先頭に立ち、国の仕組みを次々と改革し、全てを自分で監督し、全ての書類に眼を通し、誰よりも働きました。十数回にわたる暗殺の危機も自らの剣で切り抜けました。

 その合間に、北の蛮族を打ち平らげ、南と西の隣国を征服し、遠征軍の留守を狙った東の国を大いに打ち破り、激しい抵抗で征服こそ出来なかったものの、その王都を略奪しました。


 その圧倒的な強さから彼はいつしか大王と呼ばれるようになりました。


 王国は征服した地から奪ったもので富み栄え、臣民はこぞって名君と称えたましたが、その歓声を受ける王の目に喜びはありませんでした。


 大王は、征服した国々の王族や貴族の娘達を侍らせ、十二人の子供を産ませました。

 だけれども誰一人として皇后にはしませんでした。


 仕事をしている時は、誰も近づけず、誰にも相談もせず、たったひとりですごしました。



 大王は赤毛の王太子の墓を王都から伸びる街道の石畳の下に作りました。

 深い穴を掘り、皇太子の死骸を投げ込み、その上に石畳を敷いたのでした。

 遠征軍が出発する度に、その墓は何万もの軍靴や蹄に踏みつけにされました。

 しかも葬られて数年後に盗掘されて、空になってしまいました。

 素晴らしい婚約者を追放し、国を滅ぼした愚かな王太子の末路に、同情する者はいませんでした。



 大王は宝石姫の墓を焼け落ちた修道院跡に立てました。

 王妃が葬られるにふさわしい壮麗な墓でした。

 焼け跡に残っていた骨片を拾い集めさせ、石棺に収め、巨大な墓室に安置しました。

 宝石姫の骨片が入っている石棺の隣にもうひとつ石棺を置きました。その石棺は空でした。


 権力を欲した父のせいで大王と引き離され、愚かな王太子と婚約させられた悲劇の宝石姫。

 その上、愚かな王太子に追放されたにも関わらず、その男に殉じた宝石姫。

 彼女の哀しい末路に、みなが涙を流しました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る