第14話 王都陥落
女は何も反応しませんでした。
ですが黒の貴公子は気にしません。淑女の中の淑女である宝石姫なら、自らの動揺を隠すことなどたやすきことだからです。
黒の貴公子は、自分の言葉が、女の心に反応を呼び起こしてると確信して続けます。
「あの宴の日。私は遠い親戚が王都にもっている屋敷に身を潜ませていたのだ。だからすぐ動けた」
黒の貴公子は、彼女が考えていた以上に大胆な策略家だったのです。
もっとも危険なはずの王都。だからこそ、彼がいるなどとは誰も考えない場所に身を潜めていたのです。
「手勢は100余りだったが、王家の軍は、貴女のご実家の一族や領地を押さえるために各地へ散るはず。勝算は十分だ」
彼の手元には、彼によって鍛え上げられ、彼のいうことを神の託宣のごとく聞く戦士達がそろっていたのです。
「貴女のご一族が処刑され、その領地をおさえるため王家の軍が全土に散った日の夜。私は蜂起して王宮を攻めた」
そのような事態。誰一人として予測できたものはおりますまい。
「私の姿を見て、王都の軍勢は逃げ散った。王宮はあっけなく陥落した。
あの赤毛は惨めに命乞いをしたので、聞き入れたふりをして生かしてはある。
後で処刑するために。ただ私なら助けてやることはできる」
黒の貴公子は、軍勢を率いて領地から進撃してきたのではなかったのです。
王都を落とし、まだ従わない貴族達を討つべく進撃してきたのです。
男は、懐からロケットを取り出しました。
「私を警戒して王都とやりとりをしていなかったようだから信じられないかもしれませんが、これが証拠」
それは二人が身につけているのと同じ細工だったのです。
「赤毛が身につけていたロケットだ。あの男爵令嬢の髪が入っている」
触っていたくもない卑しいもののように、床に放り出します。
床にぶつかった衝撃でロケットは開き、中から一筋の金髪がまろびでました。
くせのある毛でした。
「あいつは貴女の思っているような男ではない。単なる愚昧で見苦しい男だ。眼をさましなさい」
床から漏れてくる煙は、すでに部屋をうっすらと満たしつつあります。
足下から熱まで伝わってくるではありませんか。
ですが、黒い貴公子はすっかり落ち着いていました。
目の前の女が目を覚ませば、黒の貴公子を連れてここから脱出するはずです。
万が一目を覚まさなかったとしても、真実の恋の相手を助けるため、そしてもう一度会うために、彼と共にここから脱出することを選ぶはずだからです。
女が愛しいと思い込んでいる男を助けられるのは、黒の貴公子だけなのですから。
彼の考えに死角はありません。彼は優秀で、全てを見通す男なのですから。
「そうですか……あの方は立派な最後をおとげになったのですわね。少々立派すぎたようですけど」
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