第12話 愚かさと賢さと
「だがっ、あいつが愚かであることは変わらない! 貴女に気の利いたことひとつ言えるはずがない! つまらない男だ!」
どこか悲鳴のようにさえ聞こえる声に、あわれむような響きを帯びた声がかぶさります。
「愚かであることのどこがいけないのです?」
「当たり前だっ!」
「貴方はご存じないかもしれないですが、人はみな多かれ少なかれ愚かなのですもの。自らを有能と見なしているかたでさえも」
「私が愚かだと言うのか!」
「ですから、それの何が悪いのですか? 肝心なのは、自分どこか愚かであることをよく知っていることなのですわ」
黒の貴公子は、考えても考えても自分のどこが愚かかわかりませんでした。
確かに、目の前の宝石姫の手のひらで踊らされ、命を失う縁には立ちました。でも、それすら逃れることが出来たのです。
「察する力が弱いと判っていればこそ、言葉として口に出さねば伝わらぬことがあることも判るではありませんか」
「言葉に出さずとも伝わるすぐれた男だけを集めればよいだけの話だ。そのほうが物事は早く進む」
黒の貴公子の治める土地では全てがそうなっておりました。万事が効率的なのです。
「あの方は、自分の気かなさがよく判っているがゆえに、人に対する気配りをかかせませんでしたのよ」
「無駄なことだ。気が利いた秘書でもおいて、その男に任せればいいだけのことだ。聡明な貴女に判らないはずがない。それは単なる愚かさの呼び代えにすぎないと!」
ああ。と男は内心うめき、ようやく納得しました。
目の前のうつくしい女は、薬で狂わされてはいませんが、真実の愛とやらで眼がくらまされてしまっていると。
「確かにこの国の多くの人間は愚かだ。愚かだからこそ、すぐれた者達によって導かれるべきなのだ!」
「ふふ。やはり貴方にわたくしは必要がないようですわね」
「私はそんなことを言っていない!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます