第4話 おさななじみのふたり

 ふたりは、部屋の中央に置かれた無骨なテーブルで対面しました。


「どのようなご沙汰でも覚悟はできております」


 王家の人間をのぞけば、この王国で最も高貴なひとりであった宝石姫は、今や正式な裁きを待つ罪人にすぎないのです。


「私は王家の使者としてここへきたわけではありません」


「ならば、すでに平民ですらないわたくしに、侯爵であられる貴方様がどのようなご用件でございましょうか?」


「今日は侯爵としてではなく、昔から貴女を知っている知人として来たのです」


 黒の貴公子は胸に下げた銀のロケットを示しました。

 それははるか昔、令嬢がお揃いの一方を彼に送ったものだったのです。

 ふたりは、幼なじみでもあったのです。


 両家の者たちは皆思っておりました。令嬢の隣に立つなら、あの愚昧な赤毛より彼の方こそがふさわしいと。

 当主である宝石姫の父が権力に目をくらまされなければ、実現した筈の未来でした。


「知人としてですか、では、わたくしもそのように」


 宝石姫は、かすかに顔をほころばせ


「お見かけしていない間に、少しお太りになったのではないかしら?」


 男は苦笑しました。


「手紙にも書きましたが、北の辺境は時間の流れすらゆっくりなので、ついつい気が緩んでしまうのですよ」


「国境は大丈夫なのですか?」


「万一のため、軍の半分を残してきましたから。私が鍛えた精鋭はそう易々とはまけませんよ」


「これからどちらへ?」


「王都へ向かいます」


「国王陛下に招集されてでございますか?」


「……」


 黒の貴公子は宝石姫の顔をじっと見ました。


「わたくしの顔になにか……ここにきてからは体を洗うのもままりませぬゆえお見苦しいかと」


 身をすくめるようにして、しとやかに恥じらう姫へ


「いや、貴女は相変わらずお美しい。どんなにひどい扱いも、貴女の美しさを損なうことはできぬようだな」


「おたわむれを」


「それに、この扱いもすぐ終わる」


「殿下がわたくしをお許しになるというのですか?」


 黒の貴公子はちいさく首を振る。


「いや。あの赤毛の愚昧、いえ、王太子がなそうとした貴女に対する告発は、すべて濡れ衣だったという証があるからです」


「ですが殿下は――」


「あの場にいたものは皆思ったはずです。誇り高い貴女が、あのようなことをする筈がないと」


「いえ、すべて本当の事でございます。殿下のお言葉ですから」


「あんな男でもたまたま王の息子に生まれれば殿下と呼ばれてしまう。馬鹿馬鹿しいことだ」


 黒の貴公子はそう吐き捨てました。


「もう調べはついているのです。あの場で、貴女がいやがらせをしていたと証言するはずだった者たちの幾人かが口を割ったのですよ」

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