ゆいとゆう
杜侍音
ゆいとゆう
「いそげ! いそげ!」
「待ってよぉ、ゆいちゃーん……」
「早くしないと遅刻しちゃうよ!」
もう、ゆうちゃんは体力ないな〜。
いつもグータラしてるから、いざという時に力が出ないんだよー。
それに走らないと間に合わないのに、ヒールなんか履いちゃって。まぁ、かわいいし、スタイル良くなるから、きっとわたしでも選んじゃうから気持ちはわかるけどね!
でも、それとこれとは話が別!
わたしがゆうの分までしっかりしないと!
「もー、このペースだと間に合わないよ!」
「だってぇ、ゆいが寝坊したから遅れそうなんだよ〜」
「……。それはほら、起こしてもらわないと」
「起こしたよ。いっぱい。けど、全然起きなかったんだよ〜」
「……。でも、準備はわたしの方が早かったし! のんびり準備してたのはゆうの方でしょ!」
「あ、寝癖付いてるよ」
「うそっ! どこどこー⁉︎」
ゆうがわたしの頭を指したので、すぐにお辞儀した。
そしたら、ゆうがなでなでしながら寝癖を直してくれた。
「よしよーし」
「えへへー。って! 止まってる場合じゃないんだって! 遅刻する!」
「あと5分しかないよ!」
「でも、寝癖直してくれてありがと!」
「どういたしまして〜」
さてさて、まだまだゴールまで遠いぞー。
けど、ここで一番しんどいポイント! 急すぎる階段が現れた!
急斜面にある階段なんだけど、なぜか石造りだからボコボコしていて、登るのはしんどいし、降りる時は怖いんだよね。
「えぇっ⁉︎ ここ通るの⁉︎ あっちの坂道使おうよ」
「ダメダメ! 坂道は長いんだもん。あっち行ってたら間に合わないよ。階段登る方が近道だよ」
「わたしヒールだしぃ……」
「そっかー、危ないもんねー。うーん……はっ! そうだ!」
天才的なアイディアを思いついたわたしは右の靴を脱いだ。
「ゆう! これを履いて!」
「えっ?」
「わたしがヒールの半分を履く! そしたら同じスピードで走れるよ!」
わたしは今日スニーカーを履いているからとても走りやすいのだ!
ゆうは「ゆいちゃん、頭いい〜!」と言って、すぐにヒールの片方を脱ぐ。
ふふーん、でしょー?
靴を片方交換したら準備万端。
離れないように、落ちないようにと手を繋いで、大きな一歩を踏み出した!
「──あれ、ここどこ〜?」
「また迷子になっちゃったよ!」
毎日同じ場所に通っているのに、慣れない道を選んだから迷ってしまった。
わたしたちは方向音痴だから、よく迷うんだよね。大阪の実家に帰ろうと電車乗ったら、気付いたら奈良にいたんだよね。
鹿さんがいっぱいいてビックリしたなー。
うーん、それにしてもこのままじゃ目的地に着かないよ。ど、どうしよう……。
このままだと、ゆうが心配してオロオロしちゃう。わたしがしっかりしないとぉ〜……。
「あ、ゆいちゃん! あそこにカフェあるよ!」
「え? あ、ほんとだ! え、これ美味しそう〜! お腹空いたし、ここでご飯食べよ!」
「いいよ〜」
ま、別に間に合わなくてもいっか! いつもはちゃんと行けてるもん。たまには休んじゃってもいいよね!
今はこの時だけの巡り合わせを楽しむべきだよ。うん、それがいい!
「ゆいちゃんってコーヒー飲めるのー?」
「もちろん! ミルクと砂糖入れたら飲めるよ!」
「おお、大人だー」
**
「やっと着いたねー」
「そうだねー。身体ボロボロだよー、何でだろ?」
「ゆいちゃんが靴交換しよって言って交換したからだよ〜」
「あっ、そっか! なんか歩き辛かったもんね!」
あれからたっくさん、おさんぽして、ゴールに着いたのは予定より8時間くらい経った頃だった。
「あ! ゆいちゃん見て! イルミネーション!」
ゆうが指差した方を見ると、そこにはキラキラした世界が広がっていた。木とか建物が青色や黄色に光ってて、ピカピカしていてとってもキレイ。
「わぁ……」と、言葉を失うほど、わたしは心を奪われてしまった。
「そっか、今日から12月だもんね」
「クリスマスだね〜。サンタさんに何頼もっかな〜」
「えー、ゆうはまだサンタさん信じてるのー? 子供だなぁー」
「プレゼントをくれるのは、おとうさんとおかあさんなのは知ってるよ。でも、サンタさんはグリーンランド国際サンタクロース協会で公認サンタクロースがいるんだよ。毎年デンマークのコペンハーゲンで『世界サンタクロース会議』が開催されていて──」
「おおっ……⁉︎ む、ムズかしっ! ゆうは賢いね」
「ふふーん、でしょー?」
ゆうは意外と勉強できるからなぁ。実際に今日行かなくても大丈夫だと思う。
ちなみにわたしは……まぁ、がんばろう!
「ゆいちゃん、イルミネーション前で写真とろ〜」
「うん! とろとろー!」
イルミネーションの前に並んで、わたしたちはスマホで自撮りした。
背景は真っ白でよくわかんなかったけど、今日一日がわたしたちのキラキラした思い出だね!
◇ ◇ ◇
「──お、松井と岡本じゃん」
「あ、ほんとだ。授業来てないと思ってたけど、いたんだ」
「……すげぇな。あいつらも俺たちと同じ大学生だよな。あんなのに喜んでのあいつらだけだぞ」
「学費で光るショボいイルミネーションだけどね」
「まぁ、二人ともド天然だからなー。可愛いからあんなのでも許せるな」
「ほんっと、男ってああいうの好きだよね」
「お、おぉい! 俺はそうでもないからな!」
大学にある芝生広場でキャッキャしている女子二人を横目に見ながら、カップルが会話しているのをもちろん彼女たちが知る由もない。
ゆいとゆう 杜侍音 @nekousagi
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