#11 過去、現在、未来3
今の医療では、HIVは死に至る病では無くなっている。
AIDS発症前に抗HIV薬による治療などでウイルスの増加を抑えれば、
健康な人と同じくらい生きられるのだ。
だからこそ、もっと早く気付いていれば、もっと早く検査していれば、
もっと早く治療していれば、そう思うと、悔やんでも悔やみきれない。
そんな後悔の念に
再会さえしなければ、こんなに気持ちが揺れ動く事は無かった。
諦めがつき、死を受け入れ、独りで静かに余生を送れたかもしれない。
でも、再会してしまった。彼に対する想いが再燃してしまった。
折角、あんなに、あんなに気持ちに蓋をして、ギュッと抑え込んでいたのに。
そのせいで、まだ死にたくないと思ってしまった。
死にたくない、死にたくない。
彼にまだ気持ちを言ってない。好きだと、愛してると言ってない。
いや、こうなってしはっては気持ちを伝えるべきではない。
頭の中はぐちゃぐちゃで考えが纏まらず、ただ彼を思うととめどなく涙が溢れ出た。
何時間も、何時間も泣いて泣き疲れたのか、気付いたら朝になっていた。
僕はいつの間にか、ベッドの上で、小さく、小さく丸まっていた。
昨夜に比べ、気持ちは幾らか落ち着いていた。
とりあえず洗面台に向かい、顔を洗って鏡を見ると、
そこに映った顔は、とても泣き腫らした目をしていた。
(凄い目が腫れてる・・・)
部屋に戻ってベッドの上に腰かけ、ぼんやりとした頭で考え始めた。
(彼には病気の事、ちゃんと伝えないとな。)
彼が僕の事をどう思っているかは分からなかったが、
彼に拒絶される事で自分の気持ちを整理しようと、彼へ病気の事を伝える決心をした。
そして、ゆっくりと枕元に置いてあったスマホを取り、彼にLINEをした。
電話だと、泣き疲れて枯れた声に気付き、心配するかもしれないと思ったから。
『君に話したい事がある。今度の週末会えるかな?』
送るとすぐに彼からの返事が来た。
『もう具合大丈夫ですか!?
今週末、俺はいつでも大丈夫です!後で時間と場所送って下さい!』
心配してくれているのがとても嬉しい。
だが、この約束は決別のための約束だ。そう思うと、また涙が込み上げて来た。
いつまでもスマホの画面の文字を眺めていると、
涙が次から次へと溢れ落ち、スマホの液晶画面に当たっては床に落ちた。
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