#10 過去、現在、未来2

彼と再会して二週間ほど経った頃、


「先生!なんで連絡くれないの!?」 


と彼から電話があった。

正直、歳も倍近いし、元教え子という事もあって自分からは連絡しにくかった。


「今度の週末、デートしようよ!」


思わぬお誘いがとても嬉しかったが、ここ数日体調が思わしくなく、泣く泣く断った。


「わかった!体調良くなったら連絡頂戴!絶対だよ!」


僕が躊躇ためらっているのを察したのか、後押しするかのように念を押されたので、

僕は「うん、わかったよ」と返事をして電話を切った。


数日経っても体調が戻らない僕は病院へ行き、医者に診て貰ったが、

「肺炎に似た症状ではあるが、念のため痰や血液検査も行いましょう」と言われた。


検査の結果が出るのに数日を要するらしく、

その日は咳を抑える薬や解熱剤を貰って帰途についたが、

暫くして、病院から検査結果が出たとの連絡があった。


結果を聞く為に再び病院を訪れた僕に突き付けられたのは残酷な結果だった。


「君はHIVに感染している。

そして、これまで措置をしていなかったため、AIDSを発症している。

余命は長くて3年、短いと・・・1年だ。」


頭を強く殴られたような衝撃を受け、目の前は真っ暗に、

頭は真っ白になった事を今でも覚えている。思考が停止し、考えが追いつかないのだ。


この歳だ。特定の相手もいないし、もう何年も性行為はしていない。

何故HIVに感染しているのか、全く持って身に覚えがなかった。


その日はどうやってうちに帰ったのかも良く覚えていない。


何時間か経った後、日はとっくに暮れて部屋の中は真っ暗になっていた。

その頃になってようやく止まっていた頭が動き出した。


一体原因はなんだろうか?


今更健康な体に戻る訳では無いが、どうしてもハッキリさせたかった。

そして何時間もパソコンにしがみついて調べた。


HIVの感染経路は性交渉、血液、母子感染だ。

性交渉が原因として考えられない限り、原因は血液しかない。


ネットで検索して出てきた感染事例で気になったのは、

薬害エイズ、汚染された血液の輸血による感染というものだ。

当時ニュースにもなったからなんとなく覚えていた。


薬害エイズは事件発生から既に40年ほど経っていて、

潜伏期間が長くても10年という事を考えると、これが原因とは思えなかった。


残る感染経路は輸血だ。。。輸血する程の事故に遭った覚えがな・・・い・・・


!!!


思いだした。10年程前、虫垂炎の手術をした。

虫垂炎なんて珍しくも無いし、輸血するような大手術でもないから忘れていたが、

「出血が思いの外多くて輸血した」と説明を受けた覚えがうっすらとある。


(まさか、麻酔でまだぼんやりしている時に受けた説明が、こんな事になるとは・・・)


輸血された血液がHIVウイルスに汚染されていた、それ以外に原因が考えられなかった。

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