#8 2人の関係

『ガチャッ』


D先輩が開けたドアの中は個室の病室になってて、

優しそうな少し痩せた中年男性が、ベッドの背もたれを起こしてもたれかかっていた。


歳の頃は40〜50歳くらいかな?


「やぁ、来たね。」


男性はD先輩から前もって話を聞いていたみたいで、「待ってたよ」と歓迎してくれた。


D先輩は「着替え持ってきた」と言って持って来た紙袋を男性に渡した。


「お父さんですか?」


2人の様子を見ていて仲良い親子だなーーーーと思って、思わずそう言ったんだけど、


「ぶはーーーっ」


と2人揃って吹き出した。


???


不思議そうな顔をしてる俺に、


「違うよ。俺の好きな人。」


D先輩が教えてくれた。


「え?え??だって、歳が、、、」


思わず聞き返してしまったけど、

すぐに失礼な事言っていると気付いてバツが悪そうにしていると、


「気にしなくて良いよ。親子ほど歳が離れているし、そう思うのが普通だよ。

僕だって、なんでこんな若くてカッコイイ子が僕なんか好きなんだろうって不思議だもん。」


男性は嫌な顔せず、優しく笑ってそう言った。


「2人は付き合っているって事で良いんですか?」


親子じゃないと知って、2人の関係にとても興味が湧いてきた。


だって、D先輩、彼氏が居るなんて話も、好きな人が居るなんて話もしないから、

てっきり恋愛に興味無い人かと思ってた。


「いや、違うよ。俺の片思いなんだ。」


D先輩は少し寂しそうに笑った。


えー?どうしてですか?好き合ってるなら付き合うもんじゃ?

ハッ!?もしかして男性の方がD先輩の事好きじゃない!?


と色々考えていたのが顔に出てたのか、男性がD先輩の言葉に答えるように言った。


「彼から告白された時、僕はもうAIDSを発症していたからね。

彼の事はとても好きだけど、彼に伝染うつしたくないし、重荷になるのも嫌だったから。

だから僕は付き合わないという選択肢を選んだんだ。例え彼の事が好きでもね。」


男性の顔はとても、とても優しい顔になっていて、

D先輩の事が本当に好きなんだってわかった。


「お前が相談して来た時、まさかと思ったよ。俺たちと全く同じ状況だったからな。

でも、俺たちは付き合わない事を選んだ。だからお前たちには頑張って乗り越えて欲しい。」


俺たちの分まで幸せになって欲しいんだ、

と言ったD先輩の目には薄ら涙が溜まっているようだった。


D先輩は「ちょっと飲み物買ってくる」と言って、手で目頭を拭いながら出ていった。


俺は、好き合ってる2人が付き合えないっいうのが、

なんだかもどかしくて、そしてなんだか悔しかった。


それでも、想い合う二人の空気が和やかだったのが嬉しかった。


そして、D先輩がいなくなったのを見計らって、

男性に「どうやって知り合ったんですか?」と聞いた。


Mr.D、普段恋愛の話なんてしないから、今のうちに根掘り葉掘り聞いてやろうと思って。


それに、二人の雰囲気が良いもんだから、

まだどこかぎこちない俺らの参考のためにちょっと詳しく知りたくなったんだ。

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