#7 先輩!どうしてキスしてくれないんですか!?

付き合い始めて三ヶ月が経った。


平日は時間が合う時に学校で会って、だべったり一緒に飯食ったり、

週末はお互いの家を行き来して、ゲームしたり映画観たり、たまに外に出掛けたり、

何をするという訳でも無いけど、ノンビリ楽しく過ごせてると思う。


(でも、ぜんっぜんちゅーとかしてくれないんだよなーーー)


夜、もう寝ようとベッドに入ったらふと頭を過ぎってしまったのだ。

こうなっては気になってしまって暫く眠れない。


(そう、三ヶ月も経つのにキス1つしてくれない。なんなら手も握ってくれない。)


こっちからキスの催促するような、それらしい素振りを見せても、

なんというか上手くスルーされてるような気がする。


(先輩ストレートらしいから、やっぱ男の俺とはちゅーとか無理なんかな?)


付き合い始めてから暫くした頃、先輩の口から聞いた。

実はゲイじゃなくてストレートなんだと。それでも俺と付き合ってくれるって。


(それって、ちゃんと俺の事好きって思ってくれてるって事で良いんだよなー?)


一度考え始めると、負のスパイラルだ。次から次に悪い事ばかり考えてしまう。


こういう時は・・・!


「もしもし!D先輩聞いてくださいよーーー」


困ったときのD先輩だ。

電話の向こうからは「今度はなんだ?」という面倒臭そうなD先輩の声。


面倒臭そうというよりは、惚気じゃねーだろうな、という様な感じ?


「もう付き合ってから三ヶ月になるのに、先輩がちゅーしてくんないんすよー!

やっぱ俺の事好きじゃないって事すかねー?」


うわーーーーんと電話越しに泣き言を言った。

それを聞いて、D先輩はこうなる事がわかっていたかのように俺を慰めた。


「やっぱそうなったか。俺は違うと思うけど。。。よし、今度俺に付き合え。」


週末に会う約束をして、その日は電話を切った。

それでも俺はもやもやが収まらなくて、明け方までなかなか寝付けなかった。


そして次の週末、約束していた駅に行くとD先輩が先に着いていた。

手には何か紙袋に入ったものを持っている。


何処に連れて行くんだろうか?


「おし、来たな。じゃぁ行こうか。すぐそこだから。」


D先輩はそう言うと、右手の親指を立てて、クィックィッと道の先を示した。

こっち着いて来いって事だな。


Mr.Dーー、何処行くんすかーーーー?


すぐだから黙ってついてこーーい。


なんてやり取りをしていると、ほんとにすぐだった。

駅から5分くらいで目的地に着いた。


そこは、大きな総合病院だった。


「誰かのお見舞いっすか?」


「まぁな。」


D先輩はそれから少し黙っていた。


入院患者への面会用受付で名簿に記名を済ませ、入館者用のカードを受け取った。

いつも来ているのか受付もスムーズで、迷う事無くある病室の前まで来た。


そしてD先輩は一言だけ、


「俺が医者を目指すキッカケになった人だ。」


そう言って「ガチャッ」とドアを開けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る