act.46「初戦突破」

「――やりましたね、初戦突破です」


 その言葉とは裏腹に、当然だとでも言いたげな表情の珠々奈。

 その奥では、対戦相手の2人がガックリと項垂れていた。


 ……いやいやいや!

 サクッと勝ちすぎじゃない?


「……なんですか?」

「いや、思ってたよりも随分アッサリと決着が着いたなー、と」

「だから言ったじゃないですか。ランクの差は大きいって」


 いや、言ってたけども。


 これもしかして優勝も夢じゃないんじゃ……。

 

 そんな自惚れをかましながら闘技場を出ようとした時……出入り口付近で、俺たちはある2人とすれ違った。

 ……第2試合に対戦を控えている成田さんペアだ。


 自信満々に笑みを浮かべる成田さんとは対照的に、パートナーの牧原って子はいかにも自信なさげに成田さんの後ろで縮こまっていた。


 俺は思わず2人に声を掛けそうになるが、


「行きましょう、先輩」

「う、うん」


 珠々奈にそう言われ、軽い会釈だけをしてその場を立ち去ろうとする。

 だが、そんな俺に向かって、


「――どうやら、ただ遊んでいた訳じゃないみたいだな」


 成田さんが声を掛けてきていた。

 俺はその声に反応して、思わず立ち止まる。

 そして、振り返って言い返した。


「もしかして、勝てるかどうか不安になったとか?」


 俺のその言葉に、成田さんは静かに首を振りつつ言った。


「まさか。ただ、あまりにも歯応えがなかったらガッカリだからな。少なくともそれは無さそうで良かったよ。もっとも……アタシたちに遠く及ばない雑魚であることには変わりないけどな」


「な、なんだとぉっ!?」

「悠里先輩! そんな安い挑発に乗らないでください……!」

「いや、でも……」


 珠々奈は俺を手で制し、そして成田さんに言った。


「私たちのことをなんと言おうと勝手ですけど……私たちも負けるつもりはないですから。あとで吠え面をかかないように気をつけてくださいね」


「フン……吠え面をかくのがお前らにならないといいがな」


 最後にそれだけを言った成田さんは、闘技場のほうへと歩いていった。一緒にいた牧原さんも、俺たちに申し訳なさそうにお辞儀したあと、成田さんの後ろについていく。


「……私たちも行きましょう」

「う、うん……」


 まさか……こんなふうに珠々奈が言い返してくれるなんて思わなかった。

 珠々奈は歩きながら、俺に向かって小さな声で呟く。


「勝ちましょう。絶対に」

「うん……もちろん」

「……なんですか、その顔?」


 そう言って珠々奈が睨みつけてくる。

 え? 俺いま、そんな変な顔してた?

 ……いや、きっと考えていることが顔に出てしまったのだろう。


「……珠々奈が、成田さんに向かってあんなふうに言い返してくれるとは思わなかったから」

「別に、当然です。さっきも言いましたけど、負けるのは嫌ですから」

「いや、そうじゃなくてさ……私を庇ってくれたみたいな感じだったじゃん。それがちょっと意外だったというか……」

「気のせいです」

「え?」

「気のせいです!」

「あ、そう……」


 そっか、気のせいかー。

 気のせいなら仕方がないな。


 ……。


 会話が途切れそうだったので、俺は慌てて話題を逸らす。


「そう言えば成田さんって、私たちにあんな挑発してきたけど、そんなに強さに自信があるのかな?」

「さぁ、それは分かりませんが……風紀委員のナンバー2、成田希沙羅――直接戦いを見たことはないですが、シスター契約の練度が相当なものだとは聞いたことがあります」

「なるほど……」


 そうか、やっぱりシスター契約か……。

 どれだけの力を持っているのかは分からないが、少なくとも一筋縄ではいかないのは確かだろう。

 だが、そうなると……新たな疑問が湧いてくる。


「シスター契約ってことは、さっき一緒にいたあの子……牧原花音って子との連携がすごいってことだよね?」

「まぁ、そうなりますね」

「……なんであんな子が、成田さんのシスターをやってるのかな?」


 あの子のことをそこまで知っている訳ではないけど……どう見ても成田さんとは、性格が真逆だ。

 さっき立ち去る時も、俺たちに向かってわざわざお辞儀していったし……。

 そんな子が、成田さんとシスター契約をしているのが、側から見ると不思議で仕方がなかった。


 珠々奈は俺の問いに、なんの迷いもなくこう言った。


「さぁ、そんなこと知りませんけど……シスター契約をしているってことは……2人のあいだに何らかの絆が存在するのは確かでしょうね」


 絆か……。

 だとしたらあの2人には、どんな絆があるというのだろうか。

 流石にそれは、本人たちに聞かなければ分かりようもないだろう。

 まぁ……聞いてもたぶん教えてはくれないだろうけど。

 

「さぁ、もう少しで2人の試合が始まります。観客席に急ぎましょう」

「うん」


 そうだ。

 次は成田さんたちの試合なのだ。

 あれだけ挑発をしてきたということは、きっと次の試合はその力を見せつけてくるだろう。


 こうして観客席席へと移動する俺たちだったが、果たして俺の読みは当たっていた。


 観客席側から大きな歓声が上がるのと同時に、スピーカーから興奮した様子のアナウンスが聞こえてきた。


『おおーっと! これはなんということでしょう!! まさに一瞬の出来事でした! 成田さん繰り出すの速攻に、土方・近藤ペア、文字通りでも足も出ないっ!! 成田・牧原ペア、何なく初戦突破です!!』


 ……え?

 マジっすか?

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