act.47「倒してしまっても構わんのだろう?」

『いやー、それにしても凄い試合でしたね。Aランク同士の戦いのため接戦も予想されていましたが、蓋を開けてみれば成田・牧原ペアによる一撃KOで決着がつきました。解説の学院長は、この結果をどうご覧になりましたか?』


『そうね……土方と近藤も動きは悪くなかったのだけど、それよりも成田と牧原が一歩速かった。これは経験の差が露骨に出た感じね』


『成田さんの放ったシスター契約の力……あの威力も相当なものに見えましたが?』


『ええ。シスター契約者の中でもトップクラスの威力ね。あれをまともに喰らって動ける魔法少女はまず居ないわ。先に技を出された時点で、勝敗は決まっていたようなものね』


『なるほど! 圧倒的な力とスピードを兼ね備えた成田・牧原ペアの活躍には、今後目が離せなくなりそうです! 一方で土方・近藤ペアは初戦敗退となってしまいましたが、その伸びしろは十分に感じられる試合でした! 次回の活躍に期待いたしましょう――』


 聞こえてくる実況は、早くも次の話題へと移ろうとしていた。

 そしてようやく観客席にたどり着いた俺たちだったが……実況で聞こえてきた通り試合はとっくに終了しており、既に闘技場では次の準備に取り掛かっていた。


 ……試合終わるの早すぎませんか?

 おかげで、あの2人がどんな戦いをしたのか、ばっちり見逃してしまった。


「試合、終わっちゃったみたいだね……」


 おれが珠々奈にそう話しかけると、珠々奈は頷きながら言った。


「はい。今回あの2人の戦いを見れなかったのは残念ですが……試験は5日間ありますから、まだ観戦する機会はあると思います。それよりも。いま私たちがするべきことは、目の前の試合に勝つことです」

「うん。気を引き締めないと……」


 成田さんのペアは、Aランクの相手を瞬殺したのだ。つまり実力で言えば今回の試験で頭ひとつ抜けている。

 Bランクの相手と戦って一喜一憂してる場合じゃないぞ、これは……。


 この日の試合で他に見ておきたいものは無かったので珠々奈と2人で生徒会室へと戻ると、他のメンバーが勢揃いしていた。


「あ、珠々奈ちゃん、悠里ちゃん、おつかれー」


 利世ちゃんのそんな言葉に迎えられながら、俺はパイプ椅子に腰掛ける。

 腰掛けた途端、急に疲労感が押し寄せてきた。たぶん、知らず知らずのうちに気を張っていたのだろう。


「あーもー、疲れた……」


「見たよ、悠里ちゃんたちの試合。初戦突破おめでとう」


 利世ちゃんが、テーブルに身を預けて伸びているおれに向かってそう話しかけてくる。


「ありがとう、利世ちゃん」

「初めての試合、どうだった?」

「どうって緊張しまくりだったよ。何とか勝てたからよかったけど」

「あはは、でも2人なら勝てると思ってたよ」


 確かに、今日くらいの相手なら、自分たちの力を出せれば負けることはないだろう。

 でも……。


「でも……ここから勝ち上がっていけば、どんどん強い相手とも戦うことになるんでしょ? 自信ないなぁ……」


 特に成田さんたちの活躍を聞いた直後だから、そりゃ不安にもなる。


「私は、悠里ちゃんたちなら優勝も狙えると思うけどな……」

「はは……ありがと……」


 そう言ってくれるのは嬉しいけど、その根拠はどこにあるのだろうか……。


「――何言ってるんだよ利世先輩。優勝するのは芽衣たちに決まってるじゃん!」


 と、芽衣ちゃん。

 そういえば芽衣ちゃんと美衣ちゃんも今回の試験に出場してるんだった。

 でも今日の試合スケジュールには芽衣ちゃんたちの名前はなかった。


「芽衣ちゃんたちの試合っていつだっけ?」


 俺がそう尋ねると、美衣ちゃんが答えた。


「……明日の第3試合。相手はBランク。余裕」


 そっか。

 1回戦は数が多いから2日間に分かれているんだった。2人は明日のスケジュールに組み込まれているってことらしい。

 それにしても、余裕って……たとえBランクだったとしても、大した自信だ。

 もっとも、それだけの実力があることは、俺が稽古で身をもって体験しているが……。


「そして、明日の試合に勝てれば……芽衣たちが次に当たるのは……成田・牧原ペアだよ」

「あ……」


 芽衣ちゃんの言葉に、俺はようやく気付く。

 そうだ。成田さんのペアはもう既に今日の試合で2回戦進出を決めた。そして明日の試合で双子たちが2回戦に進めば……トーナメントの組み合わせ的にこの2組が対戦することになるのだ。


「……さっきの試合、見てたけど……強いよ。あの2人は」


 そう言ったのは、珍しく大人しくしていた綾瀬会長だった。

 いつもの会長とは違い、いやに神妙な面持ちだ。


「たぶん、あの2人は……シスター技を使っての速攻が得意なんだと思う。あの2人に対抗するには……向こうよりも先に仕掛けるか、カウンターを狙うべきかな」


 カウンターか……。

 でも、果たして俺にそんな器用な真似が出来るのだろうか?

 すると珠々奈が、独り言のように呟く。


「芽衣たちと成田ペアの試合……今日の戦いが見られなかったぶん、見逃せないですね……」


 そして、芽衣ちゃんと美衣ちゃんの2人に言った。


「芽衣、美衣。成田さんたちと戦う時は、あまり瞬殺されないようにお願いね。色々と観察したいから」


 すると芽衣ちゃんはフッフッフと笑いながら、自信満々に胸を張って言った。


「ああ。時間を稼ぐのはいいけど……別に、倒してしまっても構わないんだよね?」

 

 ……。


 なんかもの凄い死亡フラグを立ててる気がするんですが……。

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