act.30「私は、魔法少女だよ」

「……それにしても、その取り残された子ってのは一体どこにいるのやら」


 すると珠々奈が言った。


「分かりませんが……子供部屋は2階にあるらしいですから、そこに居る可能性は高いと思います」

「え? それマジっすか?」

「はい、母親から直接聞いたので確かです」


 ……天才かよ。


「というか、普通それくらい聞きませんか? 情報なしで飛び込んだって、ぜんぜん効率的じゃないですよ」


 うぐ……。

 今まさに後悔していたところだから、図星過ぎてツラい。


「面目ない……」

「……別にいいですよ、時間的にはまだそこまでのロスじゃないですから。ですがこれ以上時間をかけると……そのお子さんが心配です。早く2階に行きましょう」

「……うん」


 俺たちは、二階へと続く階段を目指す。

 だが……その階段は、炎に焼かれた影響で崩落してしまっていた。


「これじゃ進めないですね……」

「……仕方ない。魔法を使って上に昇ろう!」


 俺は自分の箒に跨がる。そして、自分の背後を指差しながら珠々奈に言った。


「珠々奈も乗って」

「え……?」

「だって2人とも箒で飛べるほどの空間なんてないでしょ? それに、また何かが落ちてきたら珠々奈には攻撃形態で払ってもらわなきゃいけないし。だから、乗って?」

「……分かりました」


 珠々奈は頷くと、俺の後ろに跨り――両腰に手を回す。

 そこから珠々奈の鼓動が伝わってきて、不思議と安心できた。


「行くよ」

「……はい」


 は箒を握る手に、魔力を込める。

 すると箒は浮き上がり、俺と珠々奈の身体を宙に持ち上げた。

 そして抜け落ちた階段を飛び越えるようにして、2階へと向かう。


「……陽菜ちゃんです」

「え?」

「探しているの名前」

「そっか……」

「絶対に助けましょう」

「……うん」


 俺の背中にしがみつきながら、珠々奈は言った。


「子供部屋は、1番奥にあるみたいです」


 そんなことまで聞き出したのか。

 有能だなぁ……。

 考えなしに飛び出した俺とはえらい違いだなとつくづく思う。


「よーし、それじゃあ……そこまで一気にぶっ飛ばす!」


 俺はギアを上げ一気に加速する。

 そのおかげか目的の部屋にはすぐにたどり着いた。

 しかし……その入り口は、箪笥や本棚が幾重にも倒れ込んで、行手を完全に阻んでいた。


「ここは私が!」

「うん、お願い――!」


 珠々奈は急停止した俺の箒を力強く蹴って飛び出し、剣型のステラギアをそれに向かって突き立てる。


「でやああああぁ――!!」


 その瞬間、入り口を塞いでいた障害物はバラバラに崩れ去っていた。


「行きましょう!」

「うん!!」


 部屋の中に入ると、炎に照らされて分かりにくかったが、オモチャやぬいぐるみなどが散乱しているのが見えた。

 どうやら確かに、ここが子供部屋らしい。


「陽菜ちゃん、居る!?」


 俺はその子の名前を叫びながら、周囲を見回す。


「いたら返事して――!!」

「――ちょっと待ってください、なにか聞こえませんか?」


 珠々奈にそう言われ、俺は一旦叫ぶのをやめて耳を澄ます。


 ――――ぐすん。


 すると、ほんの僅かだが、誰かが啜り泣く声が聞こえた。


「陽菜ちゃん!?」

 

 泣き声のした方向を探すと――そこにあった学習机の下に隠れるように、膝を抱えながら座る小学生くらいの女の子を見つけた。


 俺はその子にゆっくりと近づいていき――、声を掛ける。


「――陽菜ちゃん、だよね?」


 俺の声に反応してビクッと震えてから、静かに顔を上げてこちらを見た。


「……お姉ちゃん、だれ?」


「私は――」


 何と言おうか一瞬言葉に迷ったが……やがて俺はこう言った。


「――私は、魔法少女だよ」


「魔法少女……?」


「うん。陽菜ちゃんを助けに来た」


 女の子は不思議そうな顔で俺たちを見ていた。


「ち、ちょっと……! 私たちのことは、一般人には秘密で……」

「別にいいじゃん。もう、どうせバレるんだし」

「……そうですね。確かに……そうかもしれないです」


 俺の言葉に一瞬焦る様子を見せた珠々奈だったが、この状況ではもはや規則なんてものが無意味であることを、すぐに悟ったようだった。


「いい? 今から外に逃げるから、陽菜ちゃんは私たちから絶対に離れないでね」


 少女はこくんと頷く。

 素直な子で助かった。


 俺は入ってきた部屋の入り口に視線を向ける。

 だが、そこはすでに火の海になっており、とてもじゃないが女の子を連れたまま突破できそうには無かった。


「引き返すのは無理か……」


 となると、残るは――。


「――窓を突き破って脱出しよう」

「……!? ここ2階ですよ!?」

「でも、それ以外じゃ逃げられないよ。それに、私たちには――コレがあるでしょ?」


 俺は、持っていた箒を軽く持ち上げてみせる。


「でも、外には野次馬が――いえ、そんなことはもう……考えてるヒマなんてなさそうですね」


「うん。私がこの子を抱えて飛ぶから……珠々奈は先導をお願い」


「分かりました――」


 珠々奈もステラギアを飛行形態フライトフォームに変形させ多事を見届けで――俺は女の子を抱きかかえた。


「お姉ちゃん……?」


 女の子が不安そうな目で俺を見る。


「大丈夫だよ。私が絶対……助けるから」


「うん……」


「準備はいいですか? 行きますよ――!」


 ――俺たちは、窓を突き破って脱出した。


 窓ガラスが割れる激しい音と共に、外にいた野次馬たちから、喫驚の声が上がる。


 そして――。


「――ママぁっ!!」


「陽菜――!!」


 無事に再開を果たし、安堵の涙を見せる母娘の姿が――そこにはあったのだった。

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