act.24「珠々奈の秘密」

「――そういえば、ちょうど生徒会宛てに依頼が来てるんだけど……悠里ちゃん、受ける?」


「え……?」


 依頼って、つまり……また怪異と戦うってことか……?

 この前は運良く勝つことが出来たけど……まだステラギアの扱いだってままならないのだ。

 次も勝てるなんて保証はどこにも無い。


 だが、そんな俺の不安を尻目に、会長は勝手に話を進めていく。


「学院に怪異討伐の依頼が来ることが定期的にあるんだけど、まず最初に生徒会ウチのところに依頼が流れてきて、内容ごとランク付けをするの。それを掲示板に張り出して好きに受けられるようにするんだけど……ここに掲示前の依頼があるから、悠里ちゃんが受けてもいいよ?」


「で、でも……またあの怪物と戦わなくちゃいけないんですよね……?」


 俺がそう言うと、会長は軽い口調でこう返した。


「大丈夫大丈夫! 脅威度Dの討伐依頼だから! それにこの前みたいなあんな大型の怪異、そうそう出るもんじゃないって!」


「……嘘じゃないですよね?」

 行ってみたら実は大型怪異でした、なんでオチは勘弁だ。


「ホントホント! 脅威度Dなんてゴキブリ潰すのよりも簡単だから。肩慣らしには丁度いいでしょ?」


「まぁ、そこまで言うなら……」

 

 確かに、魔法少女になった以上はどこかでもう一度怪異と戦わなくちゃいけなくなる。せっかく会長が用意してくれたんだし、こういう簡単な依頼で徐々に慣れていったほうがいいのかもしれない。


「よぅし、決まりね! それじゃあ……」


 会長は室内をゆっくりと見回す。

 そして珠々奈に視線を定めて言った。


「じゃあ、珠々奈。一緒に依頼を受けてもらえる?」


 まさか自分に声がかかると思っていなかったのだろう。珠々奈は目を丸くしながら会長に抗議していた。


「――はぁ!? なんで私が!?」

「悪いね、珠々奈。この依頼2人用なんだ」

「じゃあ他の誰かが行けばいいじゃないですか!?」

「いやぁ、だってねぇ……」


 会長は頬杖を突きながらここにいるメンバーを順番に眺めていく。


「……私は事務作業で忙しいし、利世ちゃんは私の『シスター』でしょ? 葛城姉妹もお互いに『シスター』だし……」


 シスター……?

 一体何のことだ……?

 双子の姉妹はともかく、綾瀬会長と利世ちゃんは幼なじみだったはずじゃ……。


「……そうなると、残ってるのは珠々奈だけじゃない?」

「確かにそうですけど……!」


 珠々奈はいかにも納得してなさそうな表情で会長を睨みつけた。だが、会長はトドメと言わんばかりに次の言葉を言い放つ。


「――それに、珠々奈ってSランク目指してるんでしょ? だったら、こういうところで少しでもポイントを稼いでおいたほうがいいと思わない?」

「くっ……」


 珠々奈にとってはそれが図星だったようで、急に言葉を詰まらせる。

 そして、イヤイヤながらも頷いた。


「……分かりました」


「よし、オッケー! じゃあ詳細は追って伝えるってことで。悠里ちゃんの紹介も無事済んだことだし……今日の定例会は、これにて解散!!」


 会長の号令でひとり、またひとりと退出していく生徒会役員たち。

 それに倣って、俺も部屋を出て行こうとする。


「……私もこれで、失礼し――」

「――ゴメン、悠里ちゃんだけは残ってもらってもいいかな?」


 だが、その直前で、会長に引き止められる。


「ちょっとだけ話しておきたいことがあるんだ」


 話しておきたいこと……?


「分かりました」


 俺と会長以外のメンバーが出ていくのを待って、会長はゆっくりと口を開いた。


「……悠里ちゃん、すっかり珠々奈に嫌われちゃってるよね」

 

 まったくおっしゃる通りで。


「でも……私には、ここまで嫌われる理由がさっぱり分からないです」


 俺がそう答えると、会長はウンウンと頷きながら言った。


「そうだよねー、そりゃ分からないよね。珠々奈って口下手だからさ。でも……実は、私には何となく分かるんだよ。珠々奈が怒ってる理由が」


「え……?」


「ほら、私って、中等部の頃から珠々奈のこと見てるから」


 そう言えばさっき、中等部があるって言っていたっけ。

 珠々奈も会長も中学の頃からここで過ごしてきて、もうその時すでに交流があったのだろう。

 けど、それに一体何の関係があるというんだ……?


 すると会長は、小さく笑みを浮かべながら言った。


「……どうせ学院長に、珠々奈のことを頼むって言われたんでしょ? それで……相方になって欲しいみたいなことも」


 ……その通りだ。


「会長は、知ってたんですね」


 だけど会長は首を横に振る。


「ううん。ただ……珠々奈を見ていたら、そんな気がしただけ」

「……」

「私からひとつだけお願いがあるんだけど、いいかな?」

「……はい」

「あんな態度だけど……珠々奈は本当は良い子だから、悠里ちゃんは嫌わないであげて欲しい」


 別に嫌ってなんかない。

 けど……。


「会長……私からもひとつ、聞いてもいいですか?」


「……何かな?」


 ――会長は気付いたという、珠々奈が俺に冷たく当たる理由。


「珠々奈はどうして、私を嫌うんですか?」


 会長は少しの逡巡を挟んだのち、観念したように答えた。


「珠々奈は――」

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