act.23「魔法少女学入門編 その2」

「――そもそも悠里ちゃんは、魔法少女ってどういったものなのか知ってる?」


 いきなり綾瀬会長から、そんな質問をされた。

 魔法少女が何か、か……。

 そう言われてみれば、具体的には何も分かっていない気がする。


「えっと、魔法を使える、少女……?」


 我ながらそのまんまだと思ったが、他に言い方が思いつかないのだから仕方がない。

 俺の答えに、うんうんと会長は頷いた。


「そ。魔法を使える少女……確かにその通りなんだけど、そう呼ばれるのには理由がある」

「理由ですか……」

「うん。実は魔法は、若い女の子にしか扱えないんだよ」


 ……そう言われれば確かに、この学院の生徒――若い女の子以外で魔法を使っている人を見たことがない。千景さんや楠木先生も、大掛かりな装置を使ってAMFを展開してたし……。


「具体的に言うと、魔法に目覚め始めるのは12歳あたりから。ピークは18歳でそこから徐々に魔力が衰え始めて、25歳くらいが魔法少女でいられる限界だと言われている」


「魔法の力を失った魔法少女はどうなるんですか?」


「指導者になったり、システムの開発者になったり……学院長と同じ、警察の対怪異専門部署の所属になることが多いみたい」

「へぇ……」

「悠里ちゃんの担任の莉子ちゃんも、元魔法少女だったらしいよ」

「え? そうなんですか?」


 楠木先生が魔法少女か……。


『――魔法少女プリティ⭐︎リコ!! ただいま推参!!』


 ……やべぇ。フリフリの魔法少女服を着た変な姿を想像してしまった。しかも今の年齢のままで。

 ごめん。楠木先生……。


「……ともかく、魔法は少女にしか使えない。ごく稀に魔力を持った男もいるらしいけど、ほんのひと握りだし、そもそもステラギアが拒絶反応を起こすみたい」

「どうしてですか?」

「それが、よく分かってないらしいのよ」

「はぁ……」


 そういえば、千景さんも似たようなこと言ってたな……。

 つまり、まだ魔法のすべてを解明できている分けじゃないってことか……。


「私たちが魔法少女って言われている理由ついてはだいたいこんな感じね。分かった?」

「まぁ、何となく……」


「じゃあ次は私たちが戦っている、怪異についてなんだけど……正直これも、よく分かってないの」


「『人を襲う。通常兵器では倒せない。奴らを倒せるのは魔法だけ』……でしたっけ?」

「そうそう。よく知ってたね?」

「はい、なんとなく……」


 千景さんと初めてに会った時に聞いた台詞だから、よく覚えてる。

 そしてその直後に、珠々奈が現れて……怪異を倒したんだっけ。


 会長は続けた。


「怪異は……魔力を原動力にして、人を襲う。いつから現れて、何体いるのか、まったく分かっていない。……だけどいつしか、怪異と同じ力を持つ者が人間の中からも現れて……それが魔法少女と呼ばれるようになった」


「はーい! かいちょー、しつもーん!」

 双子のうちの、元気な方が手を挙げる。


「はい、芽衣」

「怪異はどうして魔法じゃないと倒せないんですか!?」

「さすが芽衣、良い質問だね」


 そう言って会長は、ホワイトボードに棒人間と黒いモジャモジャした何かを描いていく。そしてその絵の下にそれぞれ『魔法少女』、『怪異』と書き足した。

 ……ってそれ、怪異かよ。


「怪異の体を構成しているのは、大部分が魔力なのよ。魔力は魔力によってしか拡散しない。だから、普通の武器で攻撃しても、攻撃が通らないか、通っても直ぐに再生しちゃうってワケ」


 だから魔法が使える魔法少女の存在が重要な訳なのか……。


 会長は棒人間からモジャモジャに向かって矢印を引っ張り、『こうかばつぐん!』と書き足す。


「薫姉、しつもーん!」

 今度は利世ちゃんが手を挙げる。

「はい、利世ちゃん」

「なんでそんなに絵が下手なんですかー?」

「はーい、黙っててねー」

 

 利世ちゃんがちぇー、と言っているのを尻目に、会長はホワイトボードに更に文字を並べていく。


「ちなみに、怪異には強さに応じて脅威度が設定されていて、一番下がDで一番上がSね」


 ホワイトボードには、簡易的な表のようなものが出来ていた。


 脅威度S……かなりつよい。台風くらい。

 脅威度A……つよい。戦車くらい。

 脅威度B……ちょっとつよい。ライオンくらい。

 脅威度C……ふつう。ドーベルマンくらい。

 脅威度D……よわい。チワワくらい。


 ……アバウトだな。


「この前珠々奈と悠里ちゃんが戦ったのが脅威度Aね」


 ……ということは、あの怪異って結構強かったのか? 正直、そんな実感は無いんだけど。

 

「で、魔法少女にもランクが設定されていて、こっちはCからSまで。例えばAランクなら、脅威度A相当の怪異までなら相手が出来る。けど大半がCとBで……A以上はほんのひと握りだけなんだよね」

「え……? じゃあ、脅威度A以上の怪異がたくさん現れたら、どうするんですか?」


 すると会長は他人事のように笑いながら、

「それは……結構ヤバいね」

 いや、ヤバいって……。


「だけど魔法少女の力は成長するし……ランク昇格制度もある」

「ランク昇格……ですか?」

「うん。そしてそのためにあるのが……決闘ってワケ」

「決闘……」


 昼休みに、俺と会長でやったあれか……。


「そう。魔法少女同士で決闘して、ポイントを取り合うの。基本的には、一方が相手に申し込んで、相手が承認すれば決闘スタート。ただし格上の魔法少女は、格下の魔法少女の申し込みを断れない」

 まぁ、私だけは例外だけどね、と会長は笑った。


「Aランクのボーダーは5000ポイント。そしてSランクのボーダーは10000ポイントね。それを下回ったら問答無用で降格するから、気をつけてね」


「……私は今、何ポイントなんですか?」


「ステラギアから確認出来るよ? ほら、そこの横にあるボタン」


 俺は言われるがままにステラギアを操作する。するとホログラムが空中に投影されて、文字が浮かび上がってくる。

 そこに書かれていたのは……。


 ――10000point

 ――S-Rank


「……んー、ギリだね」


 ギリだった。


 いや、一回負けたら降格するじゃん!?


「あはは、大丈夫大丈夫! 決闘する以外にも怪異討伐任務をこなしていけばポイントは溜まっていくから、悠里ちゃんならすぐに安全圏にいけるよ!」


「本当ですか……?」


「そうそう。あ……そうだ! そういえば、ちょうど生徒会宛てに依頼が来てるんだけど……悠里ちゃん、受ける?」

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