act.22「魔法少女学入門編 その1」
「……ところでさ、悠里ちゃん」
各々の自己紹介が終了したところで、綾瀬会長に声を掛けられた。
「はい?」
「悠里ちゃんはどういう経緯で魔法少女になったの?」
「……え?」
その質問をされて、俺はドキリとした。
「えっと……」
答えられる訳がない。元男で、怪しい薬を飲まされたことで魔法少女になったなんて。
それに確か千景さんも言っていた。自分が元男であることは、出来るだけ隠した方がいいと。……いや、仮に隠さなくてもいいと言われていたとしても、自らすすんで打ち明けようとは思わないが……。
「……千景さんが突然現れて、魔法少女になれって、そう言われたんだ」
だから俺は、当たり障りのない答えを言っていた。
別に嘘でもないけど……真実とも言い難い微妙なラインだ。
「なるほどねぇ……」
だけど綾瀬会長は、妙に納得した様子で頷いていた。
「学院長らしいと言えばらしいというか……私も最初は、訳も分からず連れて来られたもん」
……どうやら、千景さんがあんな感じなのは昔かららしい。
「でも、そうするとひとつだけ分からないことがあるのよねぇ……」
分からないこと……?
会長は、俺のことを訝しげにジロジロと眺めながら言った。
「学院長は、なんで今更スカウトしに行ったのかしら?」
「あ、それ私も気になってた!」
と、利世ちゃん。
「え……? どういうことですか?」
「いや、実はこの学院って高等部の他に中等部もあってさ。早い娘だったら小学校の終わり頃に魔法の力に目覚めて、そのままこの学院に入学してくるの。生徒会のメンバーはみんなそのクチだよ」
「……なるほど」
珠々奈と最初に会った時、慣れてるなと思ったけど……つまり、3年以上は魔法少女を続けてるってことだ。そりゃ、慣れてるはずだ。
「まぁ、魔法の力に目覚める歳には個人差があるから、遅い子だと中3あたりで入ってくることもあるけど……高2になってから入ってくる子はほとんどいないんだよね。悠里ちゃんみたいな魔力の強い子なら尚更。なら、どうして学院長は、いままで悠里ちゃんをスカウトしなかったのかな?」
「そ、それは……」
そんなの答えは決まっている。
俺が元男だからだ。
だけどそれを、みんなの前で言う訳には……。
「わ、分からないです……」
「あはは、だよね」
俺の曖昧な台詞に、会長は当然だと言わんばかりに笑った。
「学院長って何考えてるか分からないもんね」
「いや、それを薫姉が言うか! 薫姉こそ何考えてるか分からない筆頭じゃない……今日もいきなり悠里ちゃんのこと襲うしさ」
「えー? そんなことないよ? 私の行動原理はハッキリしてるから」
「じゃあ、なんなの?」
「そりゃもちろん……面白いかどうか! だよ!」
……。
「おーい、こいつに権力持たせたやつ、出てこーい」
「いやまぁ、私の話は置いといて」
置いとかれた。
不満顔の利世ちゃんを尻目に、会長は続ける。
「悠里ちゃんってやっぱり、訳も分からずここに連れて来られたワケだ」
「ええ、まあ……はい」
俺は素直に頷く。
訳が分からずここにいるっていうのは、全くもってその通りだ。
「うんうん、そうだよね……じゃあこの学院のルールとか、まだ全然わかってない訳だ」
「ルール、ですか……」
確かに正直言うと、よく分かっていない。
分かっていることと言えば……この学院が魔法少女を育成するために存在している場所だということと、魔法少女がランク分けされているってことくらいだ。
「……そうですね、正直まだ分からないことだらけです」
「そっか。なら私も、一肌脱ぐっきゃないね!」
会長はおもむろに立ち上がり、壁に沿うように設置されていたホワイトボードに、何かを書き込む。
そして会長が油性ペンを置いたそこには、デカデカと『魔法少女とは?』と書かれていた。
「――綾瀬式魔法少女学入門編、開校! ハイ拍手!」
「わー、ぱちぱちー」
そう言って手を叩く利世ちゃんと共に、双子たちも一緒になって拍手をしていた。
みんな仲良いなぁ……。
……もっとも珠々奈だけは、冷めた目でこちらを見ていたけれど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます