act.20「生徒会にようこそ」

 綾瀬薫――生徒会長と一戦を交えた、その日の放課後。

 俺は利世ちゃんに、こう声をかけられた。


「ねぇ、悠里ちゃん。この後って暇?」

「え? うん、暇だけど」

 

 強いて言えば久々のデスクワーク(?)で結構疲れたので、早めに帰って休みたい気持ちもあるのだが……わざわざ誘いを断るまでのことでもなかった。

 俺が答えると、利世ちゃんは安堵の息を漏らす。そして利世ちゃんは言った。


 「実は、薫姉に悠里ちゃんを連れてきて欲しいって頼まれてて。良かったら私と一緒に生徒会室に来て欲しいんだ」


 薫姉って――あの生徒会長か。

 利世ちゃんはあの生徒会長と幼馴染らしく、その影響で利世ちゃん自身も生徒会に所属しているとのことだった。


「うん、別に良いけど……」

 俺に一体何の用だろうか……。


 生徒会室に向かう途中の廊下で利世ちゃんにそう尋ねると、利世ちゃんは愛想笑いを浮かべた。


「薫姉のやることは、深く考えなくて良いと思うよ? 結構ノリと勢いで色んなことを決めちゃう人だから」

「生徒会長がそんな感じで大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。カリスマ性はあるから……まぁ、カリスマ性しかないけど」

 いやそれ、フォローになってるか?


「それにしても……会長もSランクだったなんて……」

「はは、強かったでしょ?」

 強かったなんてもんじゃないぞ。あれ以上決闘が長引いてたら多分負けてた。


「Sランクって他にもいるんだよね?」

 俺の問いに、利世ちゃんは頷いた。

「うん。でも今は、悠里ちゃんを除いたら3人だけ。悠里ちゃんが4人目だよ」

 なるほど……。

 それならば、他のクラスメイトの反応があんな腫れ物を扱う感じになっていたのも頷ける。


「Sランクって他にはどんな人がいるの?」

「うーん、あまり詳しくはないけど……薫姉と、風紀委員長の三峰みつみねって人と……あと1年生に1人いるっていうのを聞いたことがあるよ」

「ふーん……」


 風紀委員って言ったら、クラスにいたヤンキーっ娘――成田希沙羅がいるところだよな……。

 つまりそこのトップもSランクってことか……。

 話だけでヤバそうな匂いがプンプンするんですが。

 まぁ……たぶん戦うことはないと思うけどさ。


「……ちなみに、利世ちゃんは何ランクなの?」

 俺はついでに、ずっと気になっていたことを聞いてみる。


「え、私?」

「うん」

 利世ちゃんは、胸元に赤いリボンを付けている。確か珠々奈も同じ色のリボンを付けていた。


「私はAランクだよ」

 へー、Aランクか。

 まぁ、なんとなく予想はついていたけど……。


「ちょいちょい……自分で聞いといて反応薄くない? Aランクも結構すごいんだよ? 10人に1人くらいしかいないんだから」

「そうなんだ」

「そ。それ以外はBクラスとCクラス。青いリボンの子がBで、緑のリボンの子がCね」


 確かに、教室にも利世ちゃんを含めて3、4人しかいなかった。

 それだけ上のクラスになるのは難易度が高いということなのだろう。


「……じゃあ、なんで私がSランクなんだろう」

「はは……きっとあの学院長のことだから、何か理由があるんだろうけど。でも、実際悠里ちゃんは強いと思うよ? 薫姉と互角だったし」

「でも、防戦一方だったけど?」

「私なんて、薫姉と戦って5秒も立ってられる自信ないよ」


 ……生徒会長ぱねェ。


「それに、もう悠里ちゃん、結構な噂になってるよ?」

「え……?」


 利世ちゃんが指を差した方向へ目を向けてみると、数人の生徒が集まって、こちらを見ながら話をしていた。


『ねぇ、あの人が新しいSランクの芹澤悠里じゃない?』

『ああ、決闘であの綾瀬会長を終始圧倒したっていう噂の?』

『え? 私は瞬殺したって聞いたけど?』


 いや、尾ひれがつきまくってるんですが……?


 というか、つい数時間前の話だぞ?

 噂になるの早過ぎだろ――。


◇◇◇


「――ああ。その噂、私が流したの」


 そう言ったのは、綾瀬会長だった。

 

 何やってんだよ、会長!?

 と叫びたくなるのをグッと堪える。


「いやぁ、悠里ちゃんには出来るだけ目立ってほしくてね」

「……? どうしてですか?」

 俺がそう聞くと、綾瀬会長は当然のように答えた。

「だって、その方が他の勢力への牽制になるでしょ?」


 ……どういうこと?

 話が読めないんですが……。


 そして次の瞬間、綾瀬会長は俺の予想だにしていなかった言葉を口にする。


「――悠里ちゃんには、生徒会に入ってもらうから」


 ……。


 えっ……?


「ちょっと待ってください……! 私、生徒会に入るなんて一言も言ってないんですけど……?」


「でも、悠里ちゃんにも充分メリットのある話だと思うんだけどなぁ……?」


 メリット……?


 俺がその言葉の意味を問おうとした、その時――生徒会室の扉がガチャリと開く。


「お疲れ様で――」


 そしてそこから顔を出した人物とバッチリと目が合ってしまう。


「「あっ……!」」


 現れたのは、俺のよく知る人物だった。


「珠々奈……!?」

「あ、あなたがなんでここに……!?」


 ……そう。

 そこに来た少女は――速水珠々奈だった。

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