act.16「嵐を呼ぶ編入生」
俺を紹介すると言って先に教室に入っていった楠木先生だったが、彼女が入った教室からは時折、和気藹々とした談笑が漏れ聞こえていた。
それを聞くに、明るい雰囲気のクラスのようだ。
楠木先生が『みんな良い子』と言ったのも頷ける。
もっとも――。
『こんな時間まで何やってたの? 莉子ちゃん』
『莉子ちゃんのことだから、また学院長のお小言に付き合わされてたんでしょ』
『うわ、あり得る』
『だから、莉子ちゃんって呼ぶのやめてくださいってばぁ……』
――楠木先生の扱いは、頼れる先生というよりは、友達に近いもののようだった。
たぶん楠木先生は、生徒の目線に立って接するタイプの教師なのだろう。
そんな和やかなムードで進んでいた朝のホームルームは――楠木先生のある一言で、一瞬にして空気をガラリと変えた。
『実は、今から転入生を紹介します』
楠木先生がそれを言った瞬間――教室内に溢れていた会話はピタリと止まり、静寂が訪れる。
……なんだ?
転入生がそんなに珍しいのか?
……いや。
そう言えばここは、魔法少女を育成するための学校なのだ。
この学校にやってくる、イコール魔法の力を見出されたという訳で。
こんな中途半端な時期に、それも2年生という中途半端な学年で編入してくる生徒というのは、僅かなのかもしれない。
「それじゃあ、芹澤さん。入って来て」
教室の中の楠木先生に名前を呼ばれる。
このアウェーの状況で中に入っていくのは少し気が引けたが、ここで躊躇っても意味がないのは確かだったので、俺は意を決して足を踏み入れた。
楠木先生に手招きされ、俺は教壇の上に立つ。
教壇からは、教室の全部が見渡せた。
席に座っている生徒は、すべて女子だった。
当たり前だ。だってここは女子校なのだから。
だが、こうやってその事実を再認識することで、その中に俺が紛れ込んでいるという異常な状況を強く意識せざるを得なくなり、なんだか妙な気分だった。
座っている生徒は、人によって色の違うリボンを身につけており――って、ちょっと待て。
このリボンって、てっきり学年で色分けされてると思ってたんだが、違うのか?
青や緑のリボンを身につけている生徒が大半を占めていたが……中には、珠々奈がつけていたのと同じ赤色のリボンを身につけている生徒もいる。
そして不思議なことに……俺と同じ黄色のリボンを身につけている生徒は、この教室には1人もいなかった。
どういうことだ?
そして、逆に俺のことを見た生徒たちが、俄にざわつき始めた。
『え……? あの子、Sランクのリボンつけてない?』
『マジ……?』
『まさか……4人目……?』
Sランク……?
そう言えば、珠々奈も似たようなことを言っていた気がする。
そうか。珠々奈は、この黄色いリボンを見て――。
でも、Sランクって一体何のことなんだ?
その辺の学院のルール的なことは、千景さんからは一切教えてもらっていなかった。
恐らく学院生活の中で身につけていけということなのだろう。
あるいは、単に千景さんが面倒臭がっただけかもしれないが。
そう考えると、後者の方があり得るような気がしてきたな……。
まぁ、そんなことはどうでも良いか。
今は、このクラスに一刻も早く馴染むこと。それが、今の俺には最重要課題だった。
「じゃあ、芹澤さんはあの奥の空いてる席に座ってね?」
適当に挨拶を済ませた俺は、楠木先生の指示で、最奥窓側の席に向かった。
席に向かう途中、クラスメイトからの奇異の視線に晒された。
なんだなんだ、編入生がそんなに珍しいのか? えぇ?
そんな感じで、心の中でガンを飛ばしながら机の間を縫っていく。
その途中で、鋭い目つきの生徒と目が合った。
「……」
その外に跳ねたショートヘアの印象的な生徒は、美人といえばそうだが……かなり悪い目つきのせいで、ヤンキーみたいな雰囲気を醸し出している女の子だった。
そして、胸元に付けているリボンは赤だ。
このクラスの中では、俺の黄色を除いては、もっとも少ない色のリボンだった。
ざっと見た感じ、この教室には3、4人しかいない。
リボンの色がどんな意味を持つのかはまだよく分かっていないが……絡まれるのも面倒なので、俺は目を逸らしそそくさと席へと急いだ。
そして何とか席に辿り着き、座って一息ついた時……隣の席の女の子が不意に呟いた。
「突然の編入……しかも、新たなSランクか……さしずめ、嵐を呼ぶ編入生、と言ったところかな?」
さっきのことは打って変わって、ゆるふわボブパーマのカワイイ系の女子だ。
そしてリボンの色は――やはり赤だった。
女の子は、今度は俺に向かって話しかけてくる。
女の子は微笑みながら、俺に言った。
「はじめまして、芹澤さん。私の名前は
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