act.17「Shall we battle?」
「はじめまして、芹澤さん。私の名前は
そう言って俺に微笑みかける隣の席の少女。
俺は次から次へと聞こえてくる耳慣れない言葉に困惑を隠しきれずに、彼女に尋ねた。
「ちょっと待ってよ。ランクってなんのこと? それに、私のことをSランクって……」
すると、彼女は意外そうにに目を見開いて言った。
「……これは驚いたね。もしかして……まだ何も聞かされてない?」
俺は首を縦に振って肯定する。
俺が知っているのは、この学校が魔法少女を育成する期間であること――正直言ってそれだけだ。
クラスメイトたちの反応から、魔法少女には何らかのランク付けがなされていること、そして俺のランクが珍しいものであることは何となく分かったが……ランク自体が魔法少女にとって何を意味するものなのかはさっぱりだった。
安曇利世と名乗る少女は、俺の問いに応えようとする。
「ランクっていうのは……――」
「――はーい、そこ。ホームルームの続きを始めますから、静かにしてくださいねー」
だが少女の言葉を、楠木先生が遮る。
少女は、俺以外に悟られないように小さく肩をすくめた。
「……続きは昼休みになってからにしようか?」
「ああ、うん……」
結局その場では、詳しいことば何も聞けなかった。
続き昼休みに、か……。
俺はそれまでなんとも言えないモヤモヤを抱えながら、授業を受ける羽目になってしまったのだった。
授業の内容自体は、魔法少女のための学校だから特殊なのかと言えばそうではなく、至って普通の高校の授業と同じだった。
10年近く前に勉強した内容とほとんど同じだ。
だが、それが授業内容を理解できるのとイコールになる訳では決してなく、むしろ全くもってチンプンカンプンだった。
ぶっちゃけ何も覚えていない。
最初のうちはなんだかんだで行けるだろうと高を括っていたのだが……なんかだめっぽい。
俺は満身創痍になりながらも何とか昼休みまで持ち堪えた俺は、授業が終わるチャイムがなるのと同時に机の上に突っ伏した。
「あー、もうダメかも……」
弱音を吐く俺に対し、利世ちゃんは可笑しそうに笑った。
「あはは、大丈夫?」
「この学校の授業って意外と本格的なんスね……」
例えるならば、友達の家にお邪魔して晩御飯をご馳走してもらうことになったと思ったら、ゴリゴリのインドカレーを出されたみたいな……そんな気分だ。
「まーねー、ここ成績上位クラスだし」
……そんなクラスに俺を放り込んで、学院長はバカなのか?
「悠里ちゃんもまだこの学院に慣れてないだろうし、そのうち何とかなると思うよ」
うわぁ、頑張ろう。
「……ところでさ」
俺はそのままの体勢で顔を上げ、教室を見渡す。
クラスメイトの大半が、こちらを遠巻きに見ていた。
興味はあるが、近寄りがたい……なんかそんな感じ。
「もしかして私、避けられてる?」
「そういう訳じゃないけど、みんなどう話しかけたら良いか迷ってるんだよ」
「……私がSランクだから?」
「ま、そゆことだね」
これは……クラスに馴染むのも一苦労だぞ……。
それにしても……Sランクか……。
よく分からないが、ただの飾りではないのは確かのようだった。
そう言えばさっき、利世ちゃんに教えてもらうって話をしたっけ。
「あの、さっきの話だけど――」
利世ちゃんに尋ねようとした、その時――。
――ひとり、こちらに近付いてくる少女がいた。
「おい、安曇。早速編入生に唾をつけようってつもりか?」
その少女は、先程目が合ったヤンキーっぽい見た目の
ヤンキーっ娘は、利世ちゃんを睨み付ける。
だが、利世ちゃんも負けずとヤンキーっ娘を睨み返した。
「なによ。あなたには関係ないでしょ?」
「……ああ、関係ないね。だけど、生徒会のそういうコスい真似がアタシは気に入らねーって言ってんだよ」
「なに? やろうって訳?」
「……アタシはそれでも一向に構わないぜ?」
バチバチと2人の間で飛び散る火花。
これは……ヤバイぞ、色々と。
「すとぉーっぷ!!」
困った俺はその間に割って入り、2人を諫めていた。
「流石にこんなところで喧嘩するのはやめとかない?」
「……そうね、確かに悠里ちゃんの言う通りかも」
「……フン」
俺に遮られた2人の怒りは、一旦は収まったみたいだった。
……ふう、危なかった。
というか、2人とも沸点低すぎませんか?
だが、怒りが収まったは良いものの……教室の空気自体は元通りという訳にはいかず、何だがどんよりとしたものが漂っていた。
それを利世ちゃんも感じ取ったのだろう。俺に向かってこう言った。
「……そうだ、お昼なんだけど、学食で食べない? お弁当とかも持ってきてないでしょ?」
「え、ああ……うん、持ってきてないけど」
「食堂に向かいながら、色々と学院の案内もできるし。どう?」
まあ確かに、学院内はそのうち見て回りたいと思っていた。それに、敢えてこの提案を断る理由もない。
「うん、良いよ」
「やった! それじゃ、行こう?」
そう言って、利世ちゃんは俺の手を引く。
「あ、ちょ――」
「チッ……」
引っ張られる俺を睨みながら、残されたヤンキーっ娘は、吐き捨てるように舌打ちをしたのだった。
◇◇◇
「――ごめんね、さっきは」
教室をでてしばらくしたところで、利世ちゃんがそう言った。
「ううん、大丈夫。けど、どうしてあんなことに?」
俺がそう尋ねると、利世ちゃんは申し訳なさそうに空笑いをしながら言った。
「……あの娘は
「風紀委員……?」
「うん。風紀委員は学院のなかでもトップレベルに武闘派な連中だよ。そして……生徒会とは犬猿の仲なの」
そして、利世ちゃんはこう続ける。
「実は私、生徒会のメンバーなんだ」
なるほど……だから、成田さんは利世ちゃんにいきなり突っかかってきたのか。
「まぁ……詳しくはまた今度話すよ」
「うん、分かった」
無理に聞き出すこともないだろう。利世ちゃんの好きなタイミングで話して貰えば良い。
それよりも、今は……。
「それで、学食ってどんな感じなの?」
俺がそう聞くと、利世ちゃんは少しだけ考えて、答え始める。
「そうねぇ……まず――」
――プルルルル……。
だが、そのタイミングで、利世ちゃんのスマホが鳴る。
「なんだよこんな時に……げ、
利世ちゃんは、苦い顔をした後俺に一言断りを入れて、電話に出た。
「もしもし、どうしたの? え、うん……うん……」
そして通話が終わりスマホをしまうと、利世ちゃんは申し訳なさそうな声で、俺に言った。
「ごめん悠里ちゃん!! ちょっとすぐに行かなくちゃいけない用事ができちゃった。一緒に学食食べられないかも」
「そっか」
なんだかよく分からないが、外せない用事ができてしまったのなら仕方がない。
「分かった。また今度一緒に食べようね」
「うん。約束する! じゃあまたね!」
そう言った利世ちゃんは、風のように去っていった。
俺1人だけで、廊下に取り残される。
…………。
「……せっかくだし、学食には行ってみようかな」
ここまで来て、引き返すのもなんか違うし。
そして俺が、再び廊下を歩き始めた――その時。
「――ちょっとそこのキミ」
「え?」
いきなり声を掛けらた俺は、その声のした方へ振り向く。
するとそこには、1人の少女が立っていた。
高校生の女子にしては高い身長と、すらりと伸びた足。
そのモデル体型の胸元には、黄色いリボンが付いている――って、黄色!?
もしかして……Sランクか!?
「キミ……今日この学校に編入してきた、芹澤悠里ちゃんだよね?」
「……だったら?」
不敵な笑みを漏らすと――その少女は、俺に向かってこう言った。
「
――その瞬間、大音量のアナウンスが流れる。
『
――……は?
どゆこと……?
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