[22] 難敵
「レベル4!」
篠崎は吠える。声を出すことで自分に活を入れる。前線へと復帰する。
こちらと敵との力量差について事前に打ち合わせておいた。
レベル1、楽勝。ただし油断はするな。
レベル2、有利。落ち着いて対処すれば問題なし。
レベル3、互角。どうするかは戦闘継続して判断。
そしてレベル4、不利。被害を最小限に抑えて戦闘を終了させろ。
ちなみにレベル5は敗色濃厚でなりふり構わず逃げろということに決めていた。
レベル4、自分で言っておいて体が固まるのわかった。こちらが不利な状況。あるは5に近いのかもしれない。自分たちだけでこの場をなんとかできるか微妙なところ。
見てくれだけの盾を構えて再び対峙。赤眼は軽々とは動かない。
ぶっとい腕、破壊力抜群。栗木の大剣と比べてどちらの間合いが広いか。
いや接近戦は避けた方がいいだろう。リスクが大きすぎる。
だったらどうやって対処するのが適切なのか?
「時間を稼いでくれ、30秒でいい」
佐原の指示のおかげで無駄な思考が打ち切られる。そうだ。今考えている余裕はない。
「魔力を最大限まで凝縮して高密度の弾丸をぶち込んでやる!」
「了解」「まかせろ」
篠崎と栗木は同時に応えた。その手に賭けるしかないだろう。
ぞわりと背中を駆け上がる感覚。佐原が後ろで魔力を集中している。味方側だというのに強い緊張感が走る。
それが敵ならばなおさらだろう。赤眼は敏感に反応する。獣の本能が栗木に照準を合わせた。
30秒、いつもならすぐに過ぎていく時間。けれども今は戦闘中。感覚が濃密にどろどろに煮詰まっている。
さあ長い長い30秒の始まりだ。必死になって踊り狂ってやろうじゃないか。
ひとまず足元に積んでおいた石を投げる。いい感じのこぶし大のやつ。昼のうちにひろっておいた。
栗木と2人でリズムよく投げつける。赤眼はそれを意にも介さない。じりじりと近づいてくる。
ついでに使い物にならなくなった大盾も投擲する。あれならそこそこ痛いかなと思ったが、太い右腕であっさり払いのけられた。
けれどもそのタイミングで栗木が斬りかかる。大剣を振りかぶって力任せに叩きつけた。あれなら有効打となりえるかも?
そんな淡い期待はあっさり打ち破られた。赤眼は左腕を繰り出す。栗木の大剣と真正面からぶつかりあう。ぽきり。根元で折れたのは鋼の剣の方だった。
篠崎は栗木の首根っこをつかんで後ろへ投げる。体勢は崩れるが仕方がない。武器を失った今、栗木が前線に残っているのは危険すぎた。
早くも策が尽きる。30秒には程遠い。
相手がこちらの思惑に気づいていないなら楽だったのに。不必要な空想。現実は異なる。赤眼は篠崎を飛び越えてその後ろに立つ佐原に最大限の敵意を向ける。
残った武器と言えばいつも使ってる短剣1本。こんなものでいったい何をすれば? 盾が使えればまだなんとかなったかもしれない。
短剣を構えた。せめて戦う意志を見せる。獣よ、そう簡単に通れると思うなよ。武器に魔力を込めていく。強化、強化、強化。ひたすらに強化。
ふと気づく――形はなんだっていいんじゃないか?
盾だから盾の形に強化していた、短剣だから短剣の形に強化している。それが自然だから。
ぶっつけ本番。発想を転換しろ。これは短剣じゃない、盾だ。魔力を広げて防壁を展開するんだ。
横殴りの衝撃、赤眼がその左腕を振るう。バカ正直に受け止めるのは愚策。最小限にコンパクトに。抵抗するな。逆らうな。力のままに押し流されろ。
やっぱ無理だ、不自然すぎる。所詮は間に合わせの発想。さっきより数段手ひどく吹っ飛ばされる。何本か骨折れてねえかな、空中にて思う、ぎりぎり生きてるっぽい、ならよし。
「できた!」
佐原の声が聞こえた。多分幻聴でないはず。
射線は通っている。すでに後衛を守る壁すらないと言えるが。
一対一の真っ向勝負。
「貫け!!」
ぎりぎりまで充填された魔力は灼熱の軌跡を描いて夜の隙間を走る。獣の紅い左目へと突き刺さった。
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