[6] 訓練

 5日たった。

 攻撃を受けつづけている時ふと篠崎は気づいた。

 インパクトのその瞬間こちらからそれを跳ね返してやれば逆に相手の体勢を崩すことができるのではないか?

 ゴングに相談する。

「大盾の応用の一つだな。できるようになればお前らの場合、連携の起点になる。だがそいつはただ受け止めるより数段難しい。タイミングを見誤れば逆にこちらがダメージを受けかねない。使いどころを見極めろ」


 自分は次の段階に入りつつある、一度進捗の確認がてら三人で打ち合わせをする方がいいだろうと篠崎は思った。

 午後は鍛錬を早めに切り上げて三人で自室に集まる。あいかわらず藤木は書庫に入り浸っているようで朝と夜以外に彼とあうことはほとんどない。


「大盾の扱いは少しぐらいわかってきたよ」篠崎は栗木と佐原に言う。

「一人相手ならおおよその攻撃は受け止められるようになった。あとこれはまだまだできるとは言えない段階だけれども、うまくやれば相手の体勢を崩すこともできるようになるかもしれない。十日後までに間に合う、間に合わせてみせる」


「それができるようになれば戦略の幅が広がるな」と佐原。

「僕の方もだいぶものになってきた。火の玉で一撃必殺の威力とはいかないが十分なダメージを相手に与えられると思う。ただ近接はできない。集中するための時間が少し欲しい。そのあたりはまかせた」


「ってことは俺がメインアタッカーになるか」栗木は笑う。

「篠崎が防御、佐原が牽制、最後の一撃は俺がもらってく。正直助かる。相田とやっててわかったんだけども俺あんまちまちま小技きかせてくの得意じゃないんだわ。そのあたりの細かい折衝については基本お前らにまかせた」


 あくまで理想的な展開になるけれど佐原がゴングを牽制、攻撃は篠崎が受け止める。

 どこか一度でいい、タイミングを見計らって篠崎がゴングの攻撃を弾く。

 そして隙が生じたところで栗木がどかんと一発でかいの入れる。それで勝利。

 これですめば話は簡単でそううまくいくことはまずないと考えておいた方がいいだろうが。


 不測の事態を想定して作戦をつめていく。それから今後の練習方法について。

 篠崎は栗木に練習に付き合ってもらうことになった。弾く感覚を覚えるならはじめは相手を限った方がいい。

 タイミングは非常にシビアな上に相手によってその呼吸は大きく異なる。初手から複数人を相手にしてそれを見極めていこうとするのは難易度が高すぎる。

 佐原は再び書庫にこもった。少し調べたいことができたらしい。


 一日目はまるでかみあわなかった。タイミングがずれたせいで余計にダメージを受けることがつづいた。

 二日目、十回に一回ぐらいは弾けるようになった。といっても相手に生まれる隙はほんの一瞬。実用にはほど遠い。

 三日目になってようやくできるできないの見極めがつくようになってくる。弾ける時と弾けない時その違いがわかれば弾けない場合は受け止めることを選択すればいい。


 佐原の調べ物も一区切りで練兵場に戻ってくる。ついでに作戦について藤木に相談したところ二三の問題点を指摘されその対応も練ってきてくれた。

 残念ながら連携の練習には時間が一日しかない。不安は残る。しかしある程度のぶっつけ本番も仕方がないことだ。

 これから先もいつだって完全な準備ができるとは限らないのだから――与えられた手札で勝負しよう。

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