[5] 目標
「三人がかりで俺にいいのを一発入れられるならとりあえずは十分だ」
城から出て生活するにはどの程度強くなればいいかゴングにきけばそう答えた。
「お前ら三人はまだまだこっから成長する。期限を決めよう、十日後だ。がっつり防具つけて模擬戦をやる。勝つに越したことはないが負けても課題の一つは見つかる。得意を伸ばせ、連携しろ、全力をつくせ」
魔法には大きく分けて肉体強化型と外界投影型がある。
篠崎と栗木は前者、佐原は後者に当たる。バランスとしては悪くない。
佐原がすばやく火球を射出する練習をするかたわら、篠崎と栗木は二人で木剣で打ち合ってみる。
十回勝負をすれば七回は栗木が勝った。
単純に栗木の方が動きがいい。スピードが違うし、狙いも正確だ。
一撃の重さでは篠崎に軍配が上がるが当たらなければ意味はない。
「使え」とゴングが渡してきたのは篠崎の身長ほどある大きな盾だった。
持ってみるとずしりと重い。そのことに篠崎は奇妙な安心感を覚えた。
「俺は知らんがデカブツを扱うには体を延長する感覚が必要って話だ。その大盾も含めて自分の体の一部と考えてみろ。全体に魔法を通してやるんだ。ちょうどいい、栗木、正面から篠崎に撃ち込んでみな。加減はするな。お互いいい練習になるだろうよ」
篠崎は大盾を構えた。構えたところに栗木は大上段から木剣を打ち下ろしてくる。
不思議と怖くはない。衝撃の瞬間が予測できる。その瞬間に備えて魔力を集中させた。
ずしん。大盾から両腕、両腕から全身へと激しい振動が襲ってくる。
地面にしっかりと足をつけた。大地に体を根付かせるイメージ。
ここで止める。攻撃を受け止める。
栗木はなおも木剣を通じ力で押し込んでくる。通さない。その力すべてを飲み込んでやる――。
「すげえよ篠崎、でかい鉄の塊に斬りかかってるみてえだった!」
栗木は剣を下げ距離をとる。その言葉を耳にして篠崎は攻撃が終わったのだと理解できた。
少しだけ遅れて自分はそれを受け止められたのだとも理解することができた。
両腕がじんじん痛い。心臓が激しく鼓動している。
反面へんに冷静になっている自分もいた。栗木が興奮しているせいかもしれない。
たったひとつ篠崎にはがっしりとつかみとれた事実があった。
これは自分に合っている。
大盾を体から離してじっくりと眺める。単純な構造をしたそれがなんだかひどく頼もしい存在に見えた。
三人はそれぞれの技能を磨くことから始めた。連携を考えるのは後回しだ。
まだまだ自分たちはスタート地点にたったばかり。自分に何ができるかも把握していない。
そしてそのできることは十日間のうちに飛躍的に増えるはずだ。それから作戦なんてたてればいい。
栗木は相田に教えを請うた。
自分と同じ召喚者で剣の扱いに長けている相田に学ぶのが一番手っ取り早いと考えたからだ。相田は最初、自分は人に教えられるような立場でないと拒んだが、栗木の熱心な懇願から、また自身にも学ぶところは十分にあるだろうと考え、それを受け入れてくれた。
佐原は孤独な作業に没頭する。
初めに作った火の玉、それをいかに早く生成し、いかに速く射出し、いかに正確に狙撃するか。ただそれをひたすらに繰り返す。何度も何度も。すこしずつ確実性を上げていく。そこには自分と的、ただそれだけしか存在しなかった。
篠崎はとにかくいろんな人に自分に向かって打ち込んでくれるように頼んだ。
攻撃の速さ、重さ、タイミングなどなどそれらは人によって千差万別だ。三人のパーティにおいてすべての攻撃を篠崎が受ける必要がある。そのためにはせめてできる限りの攻撃を体で受け止め覚えるしかない。終わりのない地道な戦い。うんざりする気持ちもある。それすら含めて全部をこの盾で受けきってやればいい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます