[3] 練兵場

 翌朝目覚めて朝食にパンを食べて思ったのは最初に確かめるべきは自分の力だということだった。

 篠崎が「体を鍛えよう」と言うと「それがいい」と栗木は応えた。

 佐原と藤木はと言えば書物があるならどのようなものがあるのか確かめてみたいと話していてそれも重要だと篠崎は思った。


 どちらにしろどこに行けばいいかわからなかったが都合のいいことに朝食をとっているディエスを見つけた。

 どうやらディエスは召喚高校生たちの世話役をまかされたようで聞けばいろいろと教えてくれた。

「体を動かすなら練兵場に、本が読みたいなら書庫に行けばいいですね、召喚者はそれらに立ち入る許可を与えられていますよ」

 何もまとまって行動しなければならないということもないから四人は二手に分かれてそれぞれ思うところに行くことにした。あとで情報を共有する約束をして。


 中庭の練兵場にはすでに知った顔がいくつかあった。

 剣道部の相田に至っては木剣をもって素振りをしている。その姿勢は実戦で使えるかどうかはさておき綺麗に決まっていた。

 兵士たちに視線を移せば彼らは模擬戦をしているようで激しく木剣をうち交わしている。

 なんとなく違和感を覚えて目を凝らしてみればきらきらと光るものが見える。栗木に確認したところ彼にも同じものが見えているようだった。


「確かに何かが違う」

 ちょうど休憩に入った相田に尋ねるとそんな答えが返ってきた。

「思った以上に体がよく動くんだ。疲れも少ない。急に強くなった気がする。正直なところ気持ち悪いとも感じるよ。想像と実際のずれを修正するまであんまり剣を振るうこともしたくないぐらいだ」


 篠崎も木剣を握ってみたところ軽々と持ち上げることができた。

 木剣自体が軽いのかと思って手近にあった丸太に見様見真似で打ち込んでみたところ重い音が響いてどうやらそんなこともないようだった。

 なるほど相田の言うとおりに『思った以上に体がよく動く』。

 感覚も鋭くなっていると気づいた。周りを見てだれがどんなふうに剣を振るっていてどう違うのかなんとなくわかる。


「それが魔法だ」

 話しかけてきたのは筋骨隆々の禿男でゴングと名乗った。

 その肉体はどこまでも分厚くできていて正直なところ魔法という発言に少々不似合いだった。完全な偏見で申し訳ないことだけれども。

 彼は戦闘教官をやっていて召喚者に何かわからないことが教えてやれと命令を受けているから何かわからないことがあるなら遠慮なく聞けと言った。


 ずいぶんと正直な大人だと篠崎は思った。篠崎の方も率直に魔法とはなんなんだとゴングに問いかける。

 その問いかけに対しゴングはその傷だらけの顔をしかめた。

「わからん。俺にはうまく説明できない。ただ強くなりたいなら、思うように生きたいなら、その力を上手に使うことを覚えろ。自力でなんとかするしかない。俺の仕事はお前らがそれを使えるように付き合ってやるだけだ」


 木剣を素振りすることから始める。

 だんだんと精度が増していっているのがわかる。小一時間ほど木剣を振るって汗を流した。

 ここではこの世界では全身の隅々まで何かの力がいきわたっていると感じられる。その感覚に体を動かしながら徐々にならしていく。

 試しに栗木と軽く打ち合ってみれば戦いがそこそこ形になっているのが理解できた。

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