[2] クラス転移
ようやく事態が停止したことで再び生徒たちは口々に騒ぎ始める。
篠崎は佐原と栗木とうなずき合うと外へ出た。あんまり騒がしいのは好きでなかったから。
広間を出たところそこには庭園が広がっていて空は青く晴れ渡っていた。
大きく深呼吸する。草木に囲まれ空気は澄み渡っている感じがした。
少し落ち着く。あるいは自分が思った以上に混乱した状態だったのだとわかった。
「いわゆるこれはクラス転移というやつでまるでファンタジー小説みたいだね」と佐原が言った。
なるほどそう考えれば話はぐんとわかりやすくなるが現実を物語にあてはめてそのまま解釈してしまうのは少し危ないかもしれないなとも思った。
栗木がわざとらしく舌打ちをする。何かが気に入らないみたいだ。
「それでどうする」
「魔王を倒せばいいじゃん」
「まさか本気にしてるわけじゃないだろ」
「そもそもほんとにここは異世界なのか」
「たとえば東ヨーロッパのどこかと言われてもわからんわな」
「撮影にしてはあんまりにもおもしろみがなさすぎるけど」
「言葉が通じるのは変」
「それこそ魔法というやつなのでは」
「わからんことが多い」
「推測も立てられん」
広間の扉が開くと西川を先頭に元気な連中が飛び出していった。
彼らはよく言えば行動派、わるく言えば考えなし。
ひょっとすると素直に魔王を倒しに行ったのかもしれない。それで案外さっくり魔王は倒されるかもしれないし、そうすれば自分たちもまとめて元の世界に帰ることになるかもしれない。
でもたとえばそのとき便所に入ってたらどうなるのか? その場合はちょっとだけ帰るのを待ってほしい。
話題もなくなってだらだら三人で話していたところ長身の優男が通りがかって礼をするとディエスと名乗った。
「あなたたちも召喚者でしょう。これからあなたたちの生活について説明します。まとめて聞いてくれると手間が省けて助かります」
物腰の柔らかい男で新任の教師か何かを思わせた。高校生を相手にするのにちょうどいい人材かもしれない。
断る理由もないので篠崎と佐原と栗木は広間に戻った。
そこに残っていたのはだいたいクラスの半分の十五人ほどで、さすがに時間もたって落ちついた雰囲気だった。
ディエスの話を静かに聞く。
あるいは初っ端の事件が後を引いているのだろうか。高校生らに言うことをきかせるための大掛かりな演出だったという可能性?
いつのまにか血痕は拭き取られてその匂いすらも残っていなかった。
生活についておおよその説明を受ける。確かに最低限の保証はされているようだった。
多分おそらくそこまで扱いは悪くない。こちらからあきらかな敵対の意志を見せなければ。
宿舎は男女別で四人一組で一人余っていた藤木がいたので彼を入れて一部屋使うことになった。
篠崎はあまり藤木と付き合いはなかったが佐原が彼を誘った。二人はよく本の話をしていることだし趣味が合うのだろう。篠崎と栗木ともそりが合わないということもないはずだ、多分おそらく。
夕食は西洋風で味付けはおおざっぱ、あまり好みでなかった。
固く冷たいベッドに横たわる。正直なところまだ現実感はない。
生活をつづけていくうちにそれはゆっくりと取り戻されていくものなのかもしれない。
わからないことが多すぎる。一度眠って頭を整理したい。
目覚めれば元の現実に戻っていた、なんて都合のいいことを思い描きながら眠る。おやすみ。
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