第51話 60の手習い
バイオリンを習い始めました。
子供の頃習いたくて、小学校一年の頃、先生のお宅まで見学に行きました。その後、楽器店にバイオリンを見に行ったけれど…親の都合か何か問題があったんでしょうね。当時のバイオリンは高価だったに違いない。今のように規格品も少なく、手が出なかったということだと思います。親に辛い思いをさせたかもと、反省したりもします。
やらずじまいで終っていたけど、この歳になってやれる時が来るなんて…夢のよう。奇跡的に突然、その時はやって来ました。
きっかけは、静岡の文化センターで手作りバイオリンの講座を見つけたことでした。当時夫が静岡に単身赴任していて、月のうち10日は向こうで暮らしていました。駅から近いマンションに住んだ私は、歩いて駅まで行ける快適な暮らしに、買い物に行ったり文化センターを覗いたり日頃のこもり性に打ち勝ってあちこち歩いて出掛けていました。
その文化センターで『一日で作って一曲弾くバイオリン教室』に出会ったのです。
さすが楽器の街、浜松を抱く静岡だけにそんな講座があるのか〜と勝手に感動して募集チラシに目が釘づけになりました。手作りバイオリン講座。なんて魅惑的な響き。目がキラキラです。
製作、演奏練習込みで8,640円だったような…
絶対受ける!
かなり早くから講座の申し込みをして心持ちにしていました。楽器を作るなんて想像を超えるファンタスティックな事、やれるものなら是非やりたい。
10時から16時までの間に真っさらのキットから作って調律してもらって、一曲「キラキラ星」を弾くまでの講座。
ホントにそんな短時間でバイオリン作って一曲弾けるとこまで出来るの?と半信半疑でしたが…
先生から、昔はバイオリンが今みたいな高価な楽器では無く、ピアノよりどんな楽器より簡単に手に入る楽器だった。と言う話を聞いて、多くの人に持って欲しいと、簡単に手に入ればバイオリン人口も増えると言う願いを聞いて、なるほどとやる気倍増。
その後、慌ただしく作り方を教えてもらって、みんなに遅れないよに集中して作りました。
キットは合板にほとんど輪郭が切り出して有る本体を糸鋸でちょっと切り離し、胴体を二枚用意する。幅を出すために挟むグニャグニャ曲がる不思議な薄い板をボンドで着けて固定する。しばし待て。だんだん形になる。弦を張る。
端折ってますけど、この間焦る焦る。完成した人から先生が一台一台調律して手元に帰って来ると、わあ楽器だ。良い音がする。
最後にキラキラ星をたどたどしい疑わしい手つきで演奏して、上手に弾くのは難しいから消化不良に終わったものの、自分の作ったバイオリンだから気に入っている。これでちゃんと綺麗に曲を弾きたい。
てな訳で、白木で出来上がったバイオリンに色を塗って仕上げてから先生を探しました。ここはかなり難航しました。
ピアノの先生は町中にいるけどバイオリンの先生は見つからない。値段とか考えてる余裕もなくて、この気持ちのままとにかく早く習い始めたい。
そして…隣の市の先生を見つけてようやく通えるようになりました。
楽しいです。
先生が私のバイオリンを弾いてくれたりすると、自分の作った合板のバイオリンながらとっても良い音がします。感動します。
私もあんな演奏がしたい。
それを糧に、毎週通っています。
あの日から5年の歳月が流れています。ついに本物のバイオリンを手に入れました。かなり高い清水の舞台から飛び降りて、完全なる趣味に勤しんでいます。今『愛の挨拶』を練習しています。
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