第2話 娘の帰郷
23になった娘が長い放浪から帰郷した。この一年シャカリキに働いてお金を貯め。来春にはついに夢であったワーキングホリデイ、その後イギリスへ語学留学に旅立つらしい。
一人暮らしはお金が貯まらないからと家に帰ってきたのである。
東京にいた5年間。私達は毎月住居費を仕送りし、高熱費を振り込み、国民年金を払って支えてきた。その間一銭の貯金もなく、全くの裸で戻ってきたのである。荷物の中にはなんでこんなに〜と驚くほどのタンクトップ、キャミソール…畳んでも畳んでも洗っても洗っても魔法のように出てくるのである。
最近の衣生活にはこんなにタンクトップがないと駄目なわけ?と素朴な疑問。タンクトップとは?わからないおじさんのために説明するなら、若いお嬢さんが肩や背中を丸出しにして何枚も重ねて着ているランニングのようなシャツ…それが生きていくためにこんなにも必要だとは、この数には…まいった…
寂しい…出来れば娘の手に入れた資格とか、スキルとか(一緒か…)額面の大きい貯金通帳とかで驚きたいものだ。おまけに彼氏なし、その気なし、
自分の人生を考えるなら23といえば結婚、独立した歳。私は嫁入り荷物くらい自分で作れと親から言われ、セッセと働いて貯金し、用意する布団、座布団の多さに閉口し、尾張名古屋の結婚の煩わしさを感じながらも粛々と結婚準備に邁進していた。
と言う訳で、ま、何が言いたいかというと、23以降は親に生活の心配をさせないで生きてきたわけなのだ。
なのになのに…最近つくづく思うのは、息詰まる自分である。自分自身は子供と将来一緒に暮らしたいとは思わない。自分の末期の備えは自分でする。そのために相変わらず慎ましく贅沢しないで暮らしている。
なので、せめて自分のことは自分でやって欲しい。大人の基本だ。面倒はかかるは、お金はかかるは、話は通じないは、ストレスたまるは、良いことはなに一つなく、リスクばかりが嵩んでいく…
この人生は私の設計になかった、最悪のシナリオなのだ。
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