鑑定

「よかった。全員で移動にならなくて」


 さすがに王族全員ともなると、大量の警備が必要だ。事前に知らされていない国民からすれば、なんのパレードが始まるのかと大騒ぎになるだろう。


「お父様たちは忙しいですから」


 結局、代表としてシルアが付いていくことになった。皇帝が泣きそうになっていたのは見ていないことにした。


「ところで、先ほどフォルド皇帝が救世主がどうのこうのとおっしゃっていたが、何か困っていることでも?」

「ああ、それは──」


 言い淀む様子に鉄次郎が慌てる。


「すまない。不躾なことを聞いてしまった。言いにくければ言わなくていいから」

「ううん、全然。ただちょっと、国の兵力が弱まってきていて、それが国外に知られたらとお父様が困っているんです」

「なるほど」


 兵力の問題ともなると、鉄次郎一人が加わったところでたいした手助けは出来なさそうだ。しかし、あの皇帝の喜びよう。よほど鉄次郎に期待しているようだ。こちらはただの一般人、困ったことになった。


「だから、異人か」

「そうです」


 異能力を持っているかもしれない異人。それが困っている皇帝の目の前に現れた。鉄次郎は理解し、そしてやはり鑑定士に鑑定をしてもらうのが怖くなった。

 鉄次郎の希望は、小さな家を建てて平和にスローライフを楽しむ、ただそれだけなのに。皇帝が許してくれなさそうだ。


「大丈夫。冒険者として旅に出て魔王を倒せ! とかはないですから」

「はは、ファンタジー物語みたいだ。こっちにも魔王という言葉があるんだな」

「昔はいたらしいですよ? なんでも、異人に倒されて封印されたとか。昔話を集めた絵本で読んだことがあります」


「おお。すごい異人がいたものだ。どんな異能力を持っていたのだろう」

「うーん、なんだったかな……」


 シルアが思い出せないまま、二人は鑑定士がいるという教会に着いた。


「教会にいるのか」

「教会所属の人が多いですね。子どもの鑑定をしたい親御さんが多いので、お祈りのついでに出来るから便利で」

「逆も然り。双方にメリットがあるということか」

「はい」


 お祈りのついでなら、鑑定のついでもあり得る。よく出来たシステムだ。


「こんにちは」


 教会の扉を開けると、司祭が気付いてこちらへ歩いてきた。


「シルア様、こんにちは。お祈りですか?」

「いえ、今日は鑑定をしてもらおうかと思って来ました」

「鑑定を? こちらの方ですかな?」


 司祭が鉄次郎に目を向けた。


「かしこまりました。鑑定士を呼んで参ります」


 鑑定室と書かれた部屋に通され、鑑定士を待つ。なんだか大ごとになってしまった。本音を言えば、一刻も早く自宅に帰ってゆっくり昼寝をしたい。この歳になって、責任を背負うことになるなんて。

 二人並んで座る前には、大きな水晶が鎮座している。これで鑑定するのか。なんだか占いのようだ。


「お待たせ致しました」


 声のした方を見ると、小さな男性が立っていた。年の頃は鉄次郎より上だろうか。それより本当に小さい。新生児程度しかない。しかも、背中には羽が生えていた。


「鑑定士さんは妖精族なの」


 驚いている鉄次郎の横でシルアが耳打ちする。鉄次郎は無言で頷いた。


「初めまして。私、ソルトと申します。見ての通り、妖精族で御座います。以後、お見知りおきを」

「ご丁寧に有難う御座います。私は岡村鉄次郎と申します」

「なんと、ファミリーネームをお持ちとは」


 もしかして、こちらの世界では名字がある方が珍しいのだろうか。これからは名前だけ名乗ることにしよう。


「鑑定士さん。鉄さんは異人だからファミリーネームがあるの。だから、ね! もしかしたら!」

「おおお! もしかしたら!」

「シルアさん、ハードルを上げないで頂けませんか」


 本人が言っていないのに、どこにいても周りがどんどん鉄次郎の身分を上げていく。彼らの中ではもう神様にでもなっているのではないかと心配する。


「ささ。鉄次郎さん、こちらの水晶に両手を翳してください」

「わ、かりました」


 手のひらを水晶に当てる。これでどうしたら分かるのだろうか。水晶を見つめると、不思議なことに色が薄紫に変わり、くるくると中が渦を巻き出した。


「これは……?」

「分からないです。水晶の色や変化で鑑定するらしいですが、素人にはさっぱり。でも、異能力が無い人は変化が起きないそうなので、やはり鉄さんは異能力持ちで決まりですね!」

「よ──」


 よかった。何かしらの異能力はあるらしい。鉄次郎は心底ほっとした。


「これは……ふむふむ」


 悩んでいるのか、ソルトは水晶を見つめぶつぶつと呟いている。不安になる行動は止めてほしい。


「鉄次郎さん。鑑定の結果ですが、貴方は異能力を……お持ちです」

「は、はい」


 やけに溜める言い方をされる。先を急がせるわけにもいかず、唾を飲み込みながら結果を待った。


「そして、それは──」

「それは!?」


──早く聞かせてください!


 ソルトが両手を大きく挙げた。


「ずばり、【吸収】です!」

「吸収!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

そろそろ寿命なのに、世界がじじいを離さない @takanarin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ