王族大集合

 紙とペンを渡される。馴染みのある見た目でよかった。使い方が分からないとなると、他の日用品についても心配しなければならないところだった。


「私、部屋に戻ってるね。また何かあったら呼んでください。すぐにお昼ご飯で会うと思うけど」

「ありがとう」


 シルアを見送り、机に向き直る。


「えー、岡村優夏様。拝啓 花の盛りも過ぎ、葉桜の季節となりました……」


 夢中になって書いたら、三枚の大作になってしまった。まあいいだろう。本当に孫に送るわけではない、日記みたいなものだ。こうして定期的に書いておけば何が起きたのか観返した時に分かりやすいし、いつしか帰ることが出来たら見せることも出来る。


 ちょうど手紙を机の引き出しに仕舞ったところで、キリが昼食の用意が出来たとやってきた。是非にとのことで、皇帝と同じ場所で食事をするらしい。緊張する。

 廊下を歩いていくと、先ほどとは違う扉にたどり着いた。ここが食事をする部屋だという。皇帝に無礼をしては大変だ。キリが扉を開けた瞬間、鉄次郎は丁寧に頭を下げた。


「おお! この方が!」


 歓声に顔を上げると、何故か皇帝だけでなく、十人近い人間が席に座りこちらを見つめていた。


「あ、あの」

「失礼。本当は私とシルアだけの予定だったのですが、子どもたちが鉄次郎さんに会いたいと言って聞かなくて」


 子どもたちということはなるほど、王族勢ぞろいということか。鉄次郎は眩暈がした。


「おほほ、突然押しかけて申し訳ありません」


 皇帝の隣にはやはり五十前後の女性が座っている。皇后までもか。

 一人だけ庶民で、洋食のマナーに自信が無い鉄次郎は、愛想笑いを浮かべながら空いている席に座った。大丈夫だろうか。今からでも一人きりの食事に変えてほしい。野次馬根性全開の皇子皇女が鉄次郎に質問を投げかける。


「異人て本当ですか」

「異能力をお持ちだとか」

「魔法は使えますか?」

「えーと」


 どこから答えればいいか。そもそも、鉄次郎には正解が分からない質問もある。困ってシルアを見遣るが、シルアも質問が気になるらしく、止めるどころか前のめりになって目を輝かせていた。ダメだこれは。


「静かになさい」

「お母様」

「すみません」


 鶴の一声で子どもたちの声が止んだ。さすがはこの国を統治する皇帝の妻。ほっとした鉄次郎に皇后がにこりと笑う。


「して、その刀、後で拝見しても宜しいでしょうか?」


 紛れもない親子だった。


「まずは食事をしよう。静かに。いいね」

「はい」


 皇帝が窘め、ようやく静寂が生まれた。さすがは皇帝、皇后すらも黙らせた。しかしシルアは知っている。謁見の際にある程度の情報を得ているから落ち着いていられるのだと。


 黙るとさすがは高貴な生まれ。ルルまでしっかりとした手つきで食事をしている。鉄次郎は不安になりながらも、周りと合わせつつ慣れない食事を終えた。


「ごちそうさまでした」


 おとなしく待てをしていた皇帝以外は、この合図を持って解き放たれた。

 たいていはシルアたちにされた質問と似ていたが、異能力については鉄次郎自身答えることが出来なかった。


 まず、異能力というものが分からない。魔法とは違うらしい。魔法は持って生まれた素質があり、それをさらに高めて自由自在に操れるようになるのが魔法士であるが、異能力は呪文も何も無くても発揮出来る特異な能力で、異人であればほとんどの人間が持ち合わせているのだという。


「異能力か……まだ着たばかりだから、なんとも」

「鉄さん、多分持ってるよ! ゴブリンキングをやっつける時、刀が光って、鉄さんが若返ったの!」

「若返った……?」


 自分の身に起きたことながら、俄かには信じ難い。しかし、シルアが嘘を吐く意味もないので、本当なのだろう。


「おおお! ついに我が国を救う救世主が!」

「いえ、私はただの一般人ですから」


 鉄次郎が異能力を持っているかもしれないということで、皇帝たちが盛り上がり出してしまった。当の本人が一番出遅れている。


「家の建設は明日からでしょうから、午後は鑑定士の所へ行きましょう」

「鑑定士とは?」

「魔法の素質を測る者たちのことです。異能力についても調べられますよ」


 いつの間にか流れで大それたことになってしまった。


 はっきり言って、生まれてこの方七十年間、超能力の類を持っていると思ったことは一度も無い。それとも、異世界に迷い込んだ時に異能力を自動的に付与されるのだろうか。いったい誰に?


 何にせよ、「この者は魔法の素質も異能力も一切持ち合わせていません」と言われて、しょんぼり帰ることだけは避けたいと思った。周りをがっかりさせてしまう。しかも、相手はこの国で一番偉い人物だ。


──小石を動かす能力とかでいいので、一つでも何かありますように……!


 鉄次郎は心の中で強く願った。

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