フルオーダーだから結構高かった

「ほぎゃああ親玉出たぁぁッッ!」

「なるほど。先ほどの父か母か。申し訳ない。あちらが襲ってきたものだから、荒療治をしてしまった」


 鉄次郎がゴブリンキングに頭を下げる。少女が鉄次郎の背中をぽかぽか叩いた。


「ちょちょちょっと! 人語は伝わりませんから! あと多分親じゃない」

「そうか? しまった、私は日本語以外達者ではなくて」

「全人類ゴブリン語はマスターしてないと思うけど!?」

「ゴァアア!」


 ゴブリンキングが人間の会話を律儀に待ってくれるわけがない。雄叫びを上げ、こちらに近づいてくる。速くはないが、一歩一歩がとても大きい。


「全力で走れば逃げ切れるかも! 逃げましょ!」


 走る格好をした少女に、鉄次郎は待ったをかけた。


「いや、狂暴であるなら、私たちを追って人里に下りでもしたら大変だ。ここで潰しておこう」

「ゴブリンキングを!?」


 いくらなんでも無謀過ぎる。少女は躊躇ったが、鉄次郎が刀を抜いたところで覚悟を決めた。


「しょうがないな……てか格好良い! もしかしておじいさんは剣士とか? 見たことないタイプの剣だけど」

「刀を見たことがないのか? やはりここは外国か。こは日本に古くから伝わる伝統的な武器なんだ」

「すごい! 一気にやっちゃって!」

「模造刀だが」

「模造!? 模造って言った!? 模造って本物じゃないってことですか!?」


 鉄佳はとても良く出来ているが、本物ではない。登録証交付されれば一般人でも刀を所有出来ると聞いたが、万が一の安全を考えて模造刀にした。主に子どもや孫関連のである。親として祖父として、危険は出来る限り除いておきたい。


「上等な模造刀だから問題ない。頑丈だぞ」

「上等な模造って何!?」


 本物ではないと知って少女は慌てた。覚悟を決めたのは、刀があまり綺麗だったからだ。鉄次郎の肉体にこの武器があればいけるかもしれないと思った。しかし模造だった。


「なぁに心配するな。しっかり五体満足で故郷に帰らせるからな」


 鉄次郎が鉄佳を両手で持ち、力を籠める。すると、不思議なもので、鉄佳が光り出した。まるでここに飛ばされた時と同じだ。


「おお、鉄佳。ともに戦ってくれるか!」


 嬉しくなり、鉄次郎の気分が高揚する。光が徐々に広がり、鉄次郎全体を包んだ。段々と鉄次郎の体が変化していく。


「おわぁああああああ!? おじいさんが! お兄さんに!?」


 みるみるうちに鉄次郎が若返り、三十程の若者に変貌した。


「行くぞ!」


 鉄次郎は気が付いていない。己の変化に。


「ゴォオオオオ!」


 ゴブリンキングに真っ向から勝負する。勝敗は一瞬で決まった。

 鉄次郎がキングの胸元から腹まで、斜めに切ったのだ。ゴブリンキングは手も足も出ず、そこに崩れ落ちた。鉄佳を腰に納めると、姿はまた元の七十歳に戻っていった。


「安心しろ、峰打ちだ」


 模造刀で峰打ちも何もない。ただ言いたかっただけである。


 しかしどうしたことか。さすがに一発で決まるとは思わなかった。少女がジャンプしながら拍手する。


「やったあ! あんな芸当出来るなら言ってくださいよ! 負けちゃうかと思ったよぉ!」

「うむ。思ったより上手くいった。さあ、立ち上がる前にここを去ろう」


 最初から命を奪おうとは思っていない。少女が住む街が知られなければ、この者たちも自由に生きていてほしい。無駄な殺生はしたくなかった。

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