#8 覚醒

ドクンッ


身体の中で急に大きな鼓動が鳴った。


「ブハッ」


思わず上半身を起こし、止まっていた呼吸を取り戻すように大きく息を吐きだした。


「ハァ、ハァ、ハァ・・・」


呼吸や血液の流れ、止まっていた全てが一斉に動き始めるのを感じた。

特に鼓動は、これまで感じた事のない大きな音を奏でている。


ドクンッドクンッ


身体中に力がみなぎるのを感じる。

先ほどまであった身体中の傷もだんだんと小さくなっていくのがわかる。


少年は何もかも思い出した。

ひたすら棒で殴られていた事も、ごみのように捨てられた事も、

そして前世で魔王だった事も。


先程まで死に掛けていたのか、実際に死んでいたのか、そんな事はどうでも良い。

傷はやがて完全に消え去り、痛みも感じなくなった。完全に復活したのだ。


呼吸も落ち着き、冷静さを取り戻した少年は自分の両手をまじまじと見つめた。

両手が黒く光っている。いや、両手だけではなく全身が黒く光っていた。


感情が昂ると出現したあの黒い光が身体を覆っていたが、

その大きさが以前とは比べ物にならないくらいに大きかった。


「これは魔力だな。」


記憶を取り戻した魔王は、黒い光の正体が、身体からこぼれ出ている魔力だとわかった。


普通、魔力は人族には視認できない。

しかし、練りあがった濃度の濃い強大な魔力は人族であっても視認できる。


そのため、孤児院に居た頃は周りに気味悪がられただけだったが、

それくらいに魔王の魔力は強大なのだ。そして、この魔力こそが魔族の証なのだ。


「ふむ、人界でこのままでは都合が悪いな。」


力をコントロールし、黒い光は目に見えないほどの大きさになった。

記憶を取り戻した今、魔力を自在にコントロールできるようになったのだ。


ただ、人界だからか、人間の肉体だからか、

魔力は魔王だった頃に比べ1/10程度しか無かった。


(とは言っても、魔力を持たない人間と比べれば、あり得ない力な訳だが。。。)


「それにしても、私は何故人間になっているのだろうか。

確か魔眼の女と剣を持った男にまんまとしてやられ、殺されたはずだが。。。」


これまで生きてきた7年間の記憶からは、人族として転生している理由はわからなかった。


とりあえず、以前の身体に戻れないかと肉体から離れようと試みたが、

魂が肉体から離れる事はなかった。


「憑りつくのとは訳が違うな。魂と肉体が強く結びついているという事か。。。

さて、どうしたものか。可能なら、魔族の身体に戻りたいし。。。」


覚醒し、記憶が戻った今、今後どうすべきか魔王は考え始めた。

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