第一章 旅立ち

#7 孤児の価値

生きるために盗みを繰り返してきた。


物心ついた頃には孤児院に居たが、なかなかにして居心地が悪かった。

感情が昂ると癇癪を起すのだ。心を抑えきれない。そういう時に体が黒く光る。


周りの子供や孤児院の職員達はそれを奇異の目で見た。

腫物に触るように扱ったがそれが余計癪に障った。


乳飲み子の頃に孤児院の入り口に捨てられていたそうだから、

それから7年たった今、年齢も7歳という事だろう。


7歳になり、夜みんなが寝静まったのを見計らい、

兼ねてより計画していた通り孤児院を出た。


独りでなんでもできるようになったし、

居心地が悪いところに居るよりもマシだと思ったからだ。


孤児院に居る孤児達は、

生きていくために必要な全ての事を自分達でしなければならない。


なんでもできるようになったのは孤児院で育ったお陰だと考えると、

少しは感謝の気持ちも湧いてくる。


年端もいかない子供ながら、

昔から体力があり、力も強かった。逃げ足も速かった。


だから人の虚をついて店から盗みをするのは容易かった。

孤児院を出てからはそうやって独り生きてきた。


「待てこら!おい!小僧!!!」


しかし、今回はしくじった。


果物を盗んで走り去ろうとした目の前に憲兵が居たのだ。

店主の声に気づいた憲兵につかまった。


王都から少し離れたこんな小さな田舎町に、

何故王都の憲兵が居るかはわからないが、盗みがばれた。


憲兵につかまり、盗んだ店の店主に突き出された。


「この果物1つがお前より高く売れるんだ!それを盗むなんてとんでもない野郎だ!」


この世界では、孤児や奴婢、浮浪者といった身分の無い者は果物1つの価値も無いのだ。


店主は「この野郎!この野郎!」と言いながら木の棒で殴り続けた。


周りの大人達は「あぁ、またか」とただ見ているだけで、決して止めようとはしない。


なんなら「おいおい、汚さないでくれよ」と、

飛び散った血が商品に付くことを心配するばかりだ。


それでも子供達は、可哀想と憐れむ目で見ていたり、泣き出している子さえいる。


(これが人間というものだよな。利己的で他人はどうなっても構わないと思っている。

いや、しかし、子供達はそうとは言えないな。。。)


などとぼんやり頭を過ぎる。

朦朧とする意識の中、なんだか自分が人間じゃない立場で考えているな、と少し笑えて来た。


そして気の済むまで殴り続けた店の店主は、

ボロボロになったこの小さな盗人を、ボロ切れでも捨てるかのように川辺に捨てた。


店が連なる町の中心部から、少し外れた所を流れるこの川まで、

容赦なく引きられた血の混ざったこの長い筋が、

生きる価値のある者とその価値の無い者を分ける境界線のようだった。


(このまま死ぬのだろうか。。。なんという人生だろうな。。。)


今世では前世の業を負うという。


生まれてすぐ捨てられ、孤児院で育ち、いつも孤独だった。

そして最後はボロ切れのように捨てられ死んでいくなんて、

一体前世でどんな悪事を働いたのだろうか?


(ハハッ。大量殺戮でもしたかな。。。)


そんな事を思いながら、段々と霞がかかるように意識が遠のいていった。

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