第31話 シャルルの事情 ⑧
そんな件はあったけれど、結局僕とブレナー先輩は教室でヤる事はヤったのだ。
ただし僕の事をかなり苛つかせ、しかも僕に対して『分かっている』風な物言いをしたデヴィッドへの
まあ…そうは言っても僕の『お仕置き』なんてほんの可愛いらしいものだ。
ただデヴィッドの手首とナニの
デヴィッド=ブレナーは彼の身体の上に乗った僕を見上げながら、珍しく顔を赤く染めて苦し気に首を振りながら喘いでいた。
「う…シャルル…これ、痛いし…苦しい…」
「そう?…でもまだダメだよ。ふふ、もう少し我慢して?」
「…うぁ…せめて、
「だからダメだって。大人しく手は上げててよ、デヴィッド。じゃないと…いつまでもイかせてあげないよ?」
そう言って、はだけたシャツの隙間から見える乳首に僕が舌を這わせると、彼はビクっと身体を震わせた。
切なげに僕の名前を呼んで許しを懇願するデヴィッドを見下ろしていると、僕の気分はほんの少しだけ晴れた。
彼の持つ有益な情報を僕に教えてくれたのも加味して、僕は手首とデヴィッド自身の根元にきつく巻いた制服のリボンを最終的に外してあげる事にした。
「仕方が無いな。外してあげるよ。ほら…」
僕がにっこりと笑いながら二つのリボンをするりと外した途端、唸り声を上げて覆い被さる様にデヴィッドは僕を組み敷いた。
(…デヴィッドの情報も帰ったら姉さまに直ぐに確認しないといけないな)
僕は耳元で譫言の様に愛を囁くデヴィッドの声を聞きながらも、冷静な頭で考えていた。
++++++
いつもより少し遅くヘイストン家に帰宅した僕は、姉さまが早めに夕食を摂って自室で勉強をしているとメイドから聞いた。
朝練の為に明日も早く家を出るに違いない。
(…このままでは姉さまに会って話をする機会が無くなる)
と思った僕は、夕食を摂った後に姉さまの自室を訪れる事にした。
何故かいつもよりも緊張をしながら、コンコンと姉さまの部屋の扉をノックする。
すると中からはいつもの様に「はーい」と明るい姉さまの声が返ってくる。
僕は扉越しに姉さまに声を掛けた。
「…姉さま。話があるんだけど、いい?」
「――え?…シャルル?帰ってきたの?」
ガチャリと音がして薄く扉が開くと、姉さまが立っていた。
二、三日会っていないだけなのに姉さまがいつもよりも小さく見える。
(…いや、僕がデカくなっているだけか)
次いでにクラスメイトの言葉――
『…小動物っぽくて可愛いよな』
を思い出してしまい、また少しモヤっとした。
「…あれ?ねえ、なんかシャルル…ちょっと見ないうちにまた大きくなってない?」
姉さまも同じ事を思ったのか僕と同じ様な事を言っていた。
「ちょっと中で話したいんだけれど…いい?」
「あ、いいわよ。どうぞ…試験の勉強中だからさ、散らかっているけれど」
部屋の中に入ると何時に増しても部屋が汚い。
教科書は何冊も危ういバランスで乱雑に積み重なり、至る所に何かをメモした様な羊皮紙や新聞紙が散らかっている。
「…本当に汚いじゃない」
「ねーえー…だから散らかってるって言ったじゃないの。試験が終わったら掃除するわよ、その方が一度で済むし…」
姉さまはぷくっとむくれると腰に手を当てて僕に言った。
部屋を見渡すと、特に花が飾ってあるわけでもポプリのような芳香剤がある訳でも無い。
けれど不思議な事に甘い匂いがする。
(…姉さまの匂いだ)
こんな事まですぐわかるのが自分で嫌になり、僕は小さくため息をついた。
唯一座るスペースがあった姉さまのベッドの方まで、僕は床の物を踏まない様に気をつけながら歩いて座った。
姉さまはどうやら勉強をしながら僕の話を聞く気らしい。
机に直ぐに向かってまた勉強を始めている。
「珍しいね。いつも試験前は姉さまもしっかり勉強してるけど…こんなに追い込んではやらないじゃない」
「うん?…うーん…そうかなぁ。普段からやっているけど。
僕は髪の毛をガリガリとしながら机に向かう姉さまの側まで、床のゴミ――もとい散乱物を避けながら近づいた。
後ろから姉さまが苦戦する問題を覗き込みながらも、髪を掻きむしる姉さまの手を僕はそっと押さえた。
「ダメだよ。綺麗な髪が痛むでしょ――ほら見て。この方程式を使うんだよ、これにこう当てはめて…」
僕が問題の説明をひとつひとつ姉さまにする間、ふと気が付くと何故か彼女は今にも泣きそうな顔をしていた。
そんな顔を僕は見た事が無い。
「姉さま、なんでそんな顔をするのさ…今までは平気だったのに僕に教わるのが急にイヤになった?」
「…違うわ。でも自分で解きたいのよ…。
「…
僕はため息をついて姉さまから離れ、また足の踏み場の無い床を歩いてベッドに腰かけた。
『今日ここでしっかりと聞いておかなければならない』と何故か思ったからだ。
何時の間にか姉さまも勉強の手を止めてこちらを見ている。
「ねえ…なんで今回に限ってそんなにこだわるの?」
「……」
「僕の手を借りるのがどうして嫌なの?ダンスだって朝わざわざ他の生徒に頼む位…」
「頼んでないわ。交換だもの」
「それ、どういう意味さ?」
姉さまは暫く黙ってから言いにくそうに話し出した。
「デ…デートして欲しいって…言われたの。『じゃあ代わりにダンスの練習とパートナーをしてくれたらいいわ』って返したら、快く了承してくれたから…」
「――ハアッ!?」
驚きと怒りのあまり僕の声が完全に裏返った。
「デ、デート――!!?」
++++++
姉さまは一瞬あんぐりと口を開けて僕を見た。
そして気にする様に扉の方をちらと見ながら、僕へと言った。
「び、びっくりした…ちょっとシャルル、あんまり大声出さないでよ。メイド達が何事かと思って来ちゃうじゃない」
僕にしたらそれどころの話では無い。
「ね…姉さま。デ、デート…するの?」
不覚にも自分の声が震えない様にするのが精一杯だ。
確認の為の言葉をやっと吐き出しながらも、僕の脳裏には延々と今日の夕方の生徒会の一室での僕とデヴィッドの姿が浮かんでいた。
(――嘘だろう?姉さまがあんな事を…)
吐き気が小さく込み上げる。
僕は思わず立ち上がった。
何か姉さまが言っている気がしたが、僕の耳に全く入ってこない。
(冗談ではない――無理だ)
(――駄目だ。そんな事は…許せない)
絶対に駄目だ。
――許せない。
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