第21話 ジョシュア様の告白
――母が亡くなってから生活が一変した。
王都から送金されるはずの金品や贈り物の数々がいきなり激減したのだ。
母はおおらかな人であった為、あまり帳簿などの細かい確認はせず、城の会計士任せになっていたのもあり、領地に残る金が少しずつ横領されている事に気づいたのは母が亡くなってから…半年あまり経ってからだ。
王宮からの支度金は、何等かの名目を付け経費として引かれ、元々城で働いていた会計士は領地の金貨のほとんどを奪って姿をくらました。
まだ土地の権利書とか、すぐに現金にならないのは残されていたけれどね。
もしかしたら、あの会計士は王宮の貴族と繋がっていたのかもしれない。
今となっては分からないが。
その時僕はちょうど、王都の学園に入ったばかりで、学園寮で暮らしていた為、生活自体は王家で養って貰えたから、正直あまり実感が無かった。
しかし、リンドン領に帰省すると、その度に城の使用人は少なくなり、城自体の手入れもままならなくなってきていて、よっぽど学園を辞めて戻ろうかと思ったよ。
領地の皆は学園は卒業するべき、と背中を後押ししてくれたが、王都にいても、継承権からは遠く、派閥にも属していなかった僕にとって、王都での勉強はあまり意味のないものになってしまった。
学園にいる間、経営学でも専攻するべきだった――と今は後悔してる。
しかし、領地の管理が出来ていないのは自分の責任でありながら、様々な人々に裏切られたと思い込み、僕はいつしかひとに対して期待するのを止めてしまった。
卒業後も僅な資産に集る蝿の様な貴族らを相手していた結果、精神的な疲労とプレッシャーが原因で――。
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「…自ら心を閉ざしてしまった。
少しずつ回復して、ここ数年の間はバートンやデイジーやトム、ジャドーに助けられて城の管理の仕事をし始めたんだ」
ジョシュア様は手を握ったり、開いたりしていた。
その長い指の手はよく見ると、庭仕事や花の管理、山へ入ったりと領主であれば絶対にしないであろう仕事でカサカサと荒れていた。
わたしはジョシュア様のお話を聞いて、胸が痛くなってしまった。
王子として生まれながら、普通は貴族の後ろ立てのある環境が当たり前であるにも関わらず、とても苦労しながら成長されていたようだった。
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「そんな時父王から結婚の話が来た。
『金脈の門番、国庫の番人』と呼ばれるヘイストン侯爵が来て、娘を嫁に貰って欲しいと言ってきた。
(――何故僕なんだ?)
「大方金に幅を利かせた鼻もちならない我儘娘に違いないと思ったよ」
ジョシュア様は少し笑って言った。
「僕が歓迎してないと解れば、我儘娘ならすぐ嫌になって、実家に帰ると思った。
そして馬車に乗って…きみがやって来たんだ」
それからわたしの頬を指先ですり…っと触ると、わたしの瞳を見て穏やかに微笑んだ。
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初めてきみを見た時には驚いたよ。
荷物は少ないし、供の女中も居ない。
馬車から降りてきたきみは、とても綺麗で可愛らしいお嬢様と言う感じで、ほんの少しだけ心細い表情をしていた。
でも態度はとても堂々としていて、しかも気さくに挨拶やお礼を言う。
一番驚いたのは、この屋敷を見て文句も言わず、
(――あ、部屋の蝋燭の事は言っていたね。とても可愛らしかった)
屋敷内をもっと良くする為に持参金を使えと指示した事だ。
「自らの贅沢の為に、父親から多額の持参金を貰い嫁いできた令嬢だろう…という僕の予測像はあっけなく、覆されてしまった」
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「今度は反対に、僕で良いのかという疑問が湧いてしまった」
こんなに素敵な女性を、僕がこの領地で幸せに出来るのだろうかってね。
「きみは使命感に燃えてどんどん行動を起こして行った。
デンバー老医師はきみをはねっかえりみたいに言っていたが、僕にとってはその全てが…好ましく羨ましかった。
僕は――この短期間の間に、きみにすっかり恋してしまったんだ」
ジョシュア様は恥ずかしそうにわたしの方を向いた。
そして、わたしの手をカサついた長い指で包み込んだかと思うと、わたしの瞳をしっかりと見つめた。
オリーブグリーンの瞳が揺れて――褐色の長い睫毛が少し震えている。
「アリシア=ヘイストン嬢。僕の妻になってほしい。
きみは…僕を照らしてくれる太陽のような存在の女性だ」
まるで恋愛小説の登場人物の様に、美しい王子様にプロポーズされるなんて
――何だか夢を見ているかのようだった。
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