第20話 うちの領地に投資しませんか
領地についての帳簿の確認は
夕食時、わたしが支度をして広間に来られたので、一同はほっとしている様子だった。
ジョシュア様はわたしの側に来て肩に手を置くと、オリーブグリーンの瞳でわたしを見下ろした。
「――あとで話そう」
とだけ言うと、自分の夕食のお席に着いたのだった。
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「ちょっと姉さま…これ、何なの?」
「なあに?」
わたしは仔牛肉のソテーに、たっぷりと肉汁が混ざったソースを付けて、口に運んだ。
取り敢えずジャドー=エロイーズには、食前酒と前菜は簡単なものでいいから用意して欲しいとお願いした。
わたしは平気でも、シャルルやデヴィッドのような夜会食に慣れている方々からするといきなりのメイン料理投入はあり得ないから。
するとその要望にすぐに応えてくれ、新鮮な野菜と自家製チーズ、そしてサクランボのリキュールのお酒を出してくれ、予想以上のシャルルからの高評価を貰うことができたのだった。
そして件のワイン農家からのワインをサーブして貰う。
これもシャルルとデヴィッド両者から香り高くて美味しいと言って貰えた。
それから粗目の温かい自家製パンとバターそして仔牛肉のソテーだが、これもたっぷりとトリュフを載せるようにと指示した。
そのトリュフを見て歓声を上げたのがシャルルだった。
「いや…正直、こんな田舎ではと…(ここではっとジョシュア様を見た)」
ジョシュア様は下を向いて微笑んだだけだったが。
「分かるわ。想像しにくいでしょうね」
わたしは頷いて
「ここまで勢いのある美味しいワインやパンや乳製品が食卓に並んだり――」
「あと、このトリュフだ」
「そう、こんな上質なトリュフがお皿に並ぶとは思っていなかったでしょう?」
わたしは説明しようとして詰まってしまった。
「これはオリバー…いえ…」
「僕が山に入って収穫してきたものだよ」
ジョシュア様が簡潔に言った。
「そっ…そう、ジョシュア様が…」
わたしは語尾がごにょごにょになってしまったが、
「…わざわざ、殿下が山に……?」
シャルルの口調は、理解不能といった感じだった。
(よし、ここだわ)
わたしは真面目な表情で、シャルルに提案をしたのだ。
「シャルル…この領地は地のものが強くて、多いに投資のしがいがあるわよ?」
シャルルは眉根を寄せてわたしに返した。
「…ここは国王陛下の土地になるんだよ、姉さま。僕ら貴族の直接介入は許されない」
「そうよ――だから直接じゃなくて、
ジョシュア様の会社に投資してもらうのよ」
ね?――それは大丈夫よね?と、わたしはデヴィッドに訊いた。
「そうですね。殿下がこの領地に税金を払えば、法律的には可能でしょう」
「あともう一つ、ヘイストン家に宣伝してもらいたいわ」
「宣伝?」
「そうよ。王都では、年がら年中パーティー三昧でしょう?
ここの製品を使って欲しいのよ。話題にさえ上がればこっちの勝ちだから」
シャルルは呆れたようにわたしを見てから、笑った。
「…待ってよ、姉さま。
僕がさ…姉さまを大好きなのは、そういうところでもあるんだけれど。
僕らヘイストン家の利は何だい?」
「今回の調査と活躍で国庫の番人として横領犯をすっぱ抜けるのよ。
数ある侯爵家の中で目立った働きをすれば、国王陛下や王太子殿下の覚えがめでたくなるかもしれないわ」
「――それじゃ足りないね」
シャルルはいつものように淡く微笑んだ。
「僕の直接の世継が出来ないのは、多分父上にその内バレるだろう。
僕はね。…赤の他人にヘイストンを継がせるのは嫌なんだよ?」
「…何?…何が言いたいの?」
わたしは警戒するようにシャルルに訊いた。
「姉さまとジョシュア様の子供を養子にしたいんだ。
――勿論、子供本人の意思の元でいい。それが最低条件だ」
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「何故なんでもあんなに自分勝手に決めちゃうのかしら?」
わたしは寝室のソファに座ってクッションを抱え、ぷりぷりしながら文句を言った。
「そうかな?――君ら姉弟は、恐ろしく似ている気がするよ」
瞳と同じ色のガウンを着たジョシュア様は、笑いながらお茶を淹れる準備をしていた。
ジョシュア様がハーブティーの入ったカップを持って来られて、わたしの隣に座った。
「あっ、…ありがとうございます…」
恐縮してお茶を受け取るわたしに、ジョシュア様は穏やかに微笑みかけてくれた。
「アリシアはいつも通りでいいんだよ」
「はい……」
何だかとても緊張してしまう。
「さて…じゃあ、約束通り話をしよう。まず、どこから話そうか」
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僕の名はジョシュア=デミアン=ローアン。
この国の13番目の王子だ。
母は田舎のもう没落した伯爵家の娘で、王宮の侍女として働いている時に、国王に見初められた。
どう好意的に見ても、父上はスケベ心で母に手を出したと思われたが、驚くべき事に、母も少なからず父上に好意を抱いていたらしい。
母はとても穏やかな人で、王宮内の派閥に興味が無かった。
僕をお腹に身籠った時にいい機会だから、と王宮に暇を出しリンドン領を賜った。
そこから13年間はリンドン領の自然の中でのびのびと暮らす事が出来た。
――母が急な病で倒れるまでは。
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