第7話 めっちゃ貧乏に理由あり
カートをがらがらと押しながら奥の部屋に消えたオリバーを見て、ふと疑問が浮かんだので訊いてみることにした。
「バートンやデイジーはいつ食事をしているの?」
彼らは顔を見合わせてから
「…これから時間を見て各々食べます」
と答えたのでわたしはほっとした。
「良かったわ。きちんと夕食のお時間が取れるのね」
この屋敷の管理に追われて、食事や睡眠がきちんと取れているかちょっと心配になったからだ。
そう言うとデイジーはニコニコしていたが、残りの二人はなんだか複雑な表情をしていた。
寝室へ戻り入浴をデイジーに手伝ってもらい、ナイトドレスとガウンを身につけると、質問もあったので、さっそくバートンを再度呼んでもらった。
バートンがやってきてすっかり寝る支度が済んだわたしの前に立った。
「ご用は何でしょうか?奥様」
「この城の管理なんだけれど…」
わたしは話を切りだした。
「わたしが少し手をつけてもいいかしら。旦那様にその確認を取ってもらいたいの」
「もし、ジョシュア様から許可がでればーー私の持参金を使っていいから、まずこの城の従業員を早急に増やしましょう」
良い人材がすぐに来れるように、お給金は相場より高めに設定してね、
とバートンに伝えると、彼は驚いた表情をしていた。
「あと…これは角が立つから、ジョシュア様に上手に言って欲しいんだけど、ワイン農家は――多分相当儲けていると思うわ。
でなきゃあんな味はなかなか出せるものじゃないと思うの」
と、前置きしたところで
「
と伝えた。
このワインのレベルなら品質の向上に相当お金と時間をかけている筈だ。
このランクのものを献上品として出してくるなら、農家自体が潤沢なのだろう。
追で――それから、と続ける。
「ボランティア活動としてこの城で働く人の税金もきちんと取って頂戴。
そして、働いた分をきちんとお給金として出してあげて」
これも当面は持参金を使って構わない事を告げた。
そもそもこんなに豊かな自然の物が溢れている領地の城なのに、こんなに貧乏なのは何故なのか?
(それに――)
「ジョシュア様は王室からお金を貰えているの?できれば、帳簿を見せてほしいの。確認させてちょうだい」
どうもこの城で過剰に使いこんでいるのが王子ならともかく
――そうでないなら、収入源は一体どうなっているのだ?
認知された王子の筈なのだから、ある程度王室からお金が出るのは当然だ。
国王陛下にもお会いしたことがあるが、13番目だからといって渡さないようなケチなお方ではない筈だった。
(コレじゃあ日々の暮らしでいっぱいいっぱいになっちゃうじゃないの)
「分かりました。お伝えします」
バートンは少し感動した様子だった。
「正直…来たばかりの奥様がそんなにこの城の事を考えてくださるとは…思っておりませんでした」
ぽつりと言うバートンの姿を見ると、一体どんな女主人が来るのを想像していたのか、反対に訊いてみたくなってしまう。
(金遣いの荒い、世間知らずの侯爵令嬢といったところかしらね)
すると老執事は、毒を食わば皿までの心境にでもなったのだろうか?
バートンはデイジーと共に部屋を去り際に、恐ろしい事を告げた。
「申し訳ありませんが、奥様。旦那様が来られる前に、燭台の蝋燭とランプの灯りの油が切れてしまうかもしれません」
「――真っ暗になるってこと?」
「左様でございます」
「う…嘘でしょ?…」
「嘘ではございません」
生真面目に返したバートンは、危険なので廊下は少し火が付くようにしておりますが、と続けた。
廊下ではなく室内を付けていて欲しかったが、窓から月明りが入りますのでと言われると黙るしかなかった。
無い物なのだから言っても仕方ないのだが、さすがに部屋に灯り無しは怖い。
「……それも明日できるだけ購入してきていただける?」
(もちろん持参金で、だ)
「承知いたしました」
バートンとデイジーは同時に静かに一礼すると
「良く眠れるとよろしいのですが――お休みなさいませ」
と不吉な言葉を残して、部屋を去っていった。
+++++++++++++++++
「頑張って起きてなきゃ……」
わたしは思わずそわそわしてしまった。
(そうか…、一応初夜か)
と思いつつも実感が無い。
(そりゃそうよね)
そもそも
――実際
(本当にいらっしゃるのかしら?)
と心配になる。
その時ジジッ……と音がして部屋が真っ暗になってしまった。
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