第2話 まともな姉弟愛ください

シャルルはかなり問題アリなのだ。


しかし、誰も気づいていない。


いや――シャルルの側近らは知っているのかもしれないが。


わたしが知る中で一番美しい人間――

実弟シャルルの恋愛対象は完全に男性だ。


つまりあの子はゲイなのである。


もっと細かい性事情までは把握してないけれど。


私個人としては、別に本人の嗜好と、

まあ…お付き合いのお相手はどうこう言うべきではないと考えている。


でも、お父様は違う。


「アリシア…後継者を決めようと思う。お前は優秀だが、一応男子だからシャルルも加える。あいつはあまり乗り気じゃないようだから、間違いなくお前が勝つに違いないが、取り敢えずやり遂げてくれ」


お父様に告げられてから2年間、ありとあらゆることに頑張った。


眠る間も惜しみ、学校ばかりでなく後継者としての領地経営云々についての勉強も、だ。


意外に苦労せずシャルルがそれに付いてきたなぁと思ったら、その後軽々とわたしのすべてを抜き去った。


(え?どういう事?)って思っていたら、シャルルは少し申し訳なさそうに


「ふふ…ごめんね。僕、姉さまの後について行くのちょっと、飽きちゃったんだ…出来ないふりもさ」

とあっけらかんと言った。


「姉さまはさ…まあまあ優秀って言われているけど、生き残っていくには人が好過ぎるよね。

もっとさ、ズルくならないとヘイストン家はこれから生き残れないよ?」

と続けて言った。


わたしは唖然としてしまった。

確かに世間的に甘ちゃんだったのかもしれない。


そして今考えれば、シャルル本人の嗜好をとやかく言うのは、下劣かなと配慮したのも間違いだったのかもしれない。


後継者争いの際、お父様にこのネタを暴露しておけばよかったと思っても後の祭りだ。


お父様が知ったら今度は卒倒どころでは無いだろう。


へイストン家の血筋を守る事に心血注いできたお父様の心の臓が…今度こそ、もたないかもしれない。


(しかし着々と父が真実を知る日Xディは近づいているのよ)


恋人を養子にするだのなんだので、ゆくゆくは後継者問題ーーいやその前に配偶者問題で揉めることは予測がつく。


更に、もうひとつ問題がある。


シャルルは超・超・超絶エゴイスティックなナルシストだ。


そして、ヘイストン家を心から誇りに思い、


(その部分はとても敵わない)とわたしは思っている理由がある。


それは彼はゲイでありながらヘイストン家を愛するあまり、唯一子供を孕ませてもいいと思う相手が、実の姉――つまりわたしであるという完全に●●ガイの思考だ。


(これはシャルルを探っている時に、彼が彼の取り巻きの1人に言ったという、彼も真っ青になった情報だ)


――正気だろうか?

姉を愛するというのにも限度があるだろう。


まともで普通の兄弟愛を望むわたしにはとてもついて行けない。


(我が家はチェーザレ家ではないのによ?)


昔から女性でも亡き母は勿論なのだが、やたらわたしを溺愛する傾向があるのはこれか――と鳥肌が立った。


勝てばシャルルに出て行ってもらうだけだが、負けた以上ヘイストン家にはいられない。


(ここに居れば、これから後継者問題に行き詰まったシャルルがいつ夜中に襲いにくるか分からないし)


冗談でなく本気で身の危険を感じる。


速攻で家を出るべきだろう。


ちょうど良いタイミングで、シャルルは明日から領地の視察に出る予定だ。


(お父様に言って、明日か明後日には家を出よう)と決意したのだった。


++++++++++++++++++


「――王子のお名前はジョシュア様だ」


意識を取り戻したお父様がようやく教えてくれた。


どうやら、ジョシュア=D=ローアンというのがお名前のようだ。


わたしは馬車で山道をガタガタと移動していた。

「ちょっと…こんなに山奥にあるとは聞いていないわ」


父ヘイストン卿がわたしを円満に家から追い出すために見つけた嫁ぎ先は、一応王族だった。


『何と言っても王子様だから』

――とは言っても、側室の方からお生まれになった末弟で、13番目の方だから勿論…継承権など無きに等しい。


(まあ、気楽と言えばそうだけどね…)


邪魔な娘をお金をつけて押し付けるのに、名門ヘイストン家としては外聞的に悪くない相手だ。

 

けれど、ほとんど世俗と関わらない噂を聞かないお方故に、見た目が分からない謎のお方だ。


お名前もほんの昨日、一昨日知ったばかりである。


歳だけはお聞きしていて、わたしの5歳年上の23歳だった筈だ。


王族の方はほとんど10代でご結婚されるから、やや晩婚になるだろう。


急に森が開けて大きな邸宅が見えてきた。


『とうとう我が国13番目の王子様であるジョシュア=ローアン様にお目にかかることになるのだ』と思うと、わたしは身の引き締まる思いだった。


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