第5話

「きっこちゃん、わろてる場合やないねん。」

「なんで?とこちゃんが自分の進路、本気で考えて、ほんまにふさわしい学校がみつかったのに。喜ばしいことやで。正直いうてな、うちが考えているんは、学費が安いかどうか、それだけやで。まあな、理系は絶対にいらんけど。学部はどこでもええ。共学の四年制大学に行って、卒業したら、オフィス街、ヒールはいて歩く。仕事はなんでもええねん。仕事しながら小説書くのがうちの夢。」

「きっこちゃんかて、考えてるやん。」

「こっそりな。小説家なんて言うたら、お父ちゃんに、お前はアホかって言われるわ。お母ちゃんかて、もしも、小説書くのに専念する言うて、就職せえへんかったら、世間体ばっかり気にするで。せやから、うちは、こっそり夢見てるけど、とこちゃんは、そうはいかへんな。夢かなえるのに必要な、ちゃんとした学校に行かなあかんわ。」

「どないしよ。お姉ちゃんは短大やのに。川村モード学院な、四年やねん。学費、お姉ちゃんの倍や。お父ちゃんに怒られるわ……」

「頑張って、家庭科の先生が言わはった通りのことを、お父ちゃんに言うしかないな。」

とこちゃんは今にも泣きだしそうだ。

「どうやろ、とこちゃん、何か、条件、付け加えたら。例えば、学費、高いかわりに、お嫁入りの時に何もいらんとか……そうや、跡取りのお姉ちゃんとちごうて、洋裁で身を立てるとか…」

とこちゃんは目を丸くしている。

「この際、うちのお母ちゃんとおばちゃんのこと、引き合いにだしたらええわ。」

「きっこちゃん、どういうことや?」

「女きょうだいかて、ケジメがいるってことや。うちのお母ちゃん、女二人のきょうだいの妹なんや。上の姉ちゃんのおばちゃんがお婿さんもろて、跡取りやねん。けど、とこちゃんもよう知ってるように、うちのお母ちゃん、長男の嫁やいうても、お父ちゃんのお母さんがはように亡くなって、後から新しいお母さんが来て、弟ができて、その人が跡取りにならはったやろ。

 せやから、実質的に長男の嫁やないねん。お母ちゃんの方のおじいちゃん、おばあちゃんは、妹のお母ちゃんが優しいいうて、何かというと頼りにする。勝手な時はおばちゃんが跡取り娘で、そうなると女二人のきょうだい、仲悪いで。はたから見てたら、おばちゃんが気の毒や。けど、お母ちゃんは自分のほうが親孝行やと思いこんで、滑稽やで。」

「女きょうだいかて、ケジメがいるか……きっこちゃん、それ、いただきや。うちは何がなんでも自立したいから、専門学校のほうに行かせてくれって、お父ちゃんに言うてみる。」


 二日後。

「どないなった、とこちゃん?」

「お父ちゃんがしゃあないなあて。」

「よかったやんか。」

「家族のみんながお見通しやった。」

「何を?」

「きっこちゃんに知恵つけてもろたんやろうて、笑われた。ほんまやけど。腹立つわ。」

「とこちゃんとこは、ええ家族や。とこちゃんのこと、ようわかってはるんやさかい。うちとこは、うちが小説書いているのも知らんやろ。言う気もないけど。」

「なあ、きっこちゃん、今度こそ、新世界に行けるかな?」

「もちろんや。」

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