第一話 筆箱から見える景色
まぁ、そんなわけで俺は無事こいつに選ばれた。
簡単に言ったら、買われたということだ。
俺がこれからの居場所、いわば筆箱?という場所に行くまで少し時間があるから、その間に俺の自己紹介をしようと思う。
俺は、まぁ名前の通りシャーペンだ。有名ブランドの一昔前のデザインで、その当時はすごい人気だったが、今はそうでもない。
こうして今日まで数ヶ月、俺が選ばれなかったのが何よりの証拠だ。
まぁ、このくらいだろう。
ちなみにあいつはというと、呑気にフードコートでアイスを食べている。もちろん、アイスを食べる顔も尊い。
そう思っていると、俺の入っている袋が大きく揺れた。どうやら俺は袋ごと床に落ちたようだ。
そこまではぶっちゃけどうでも良かった。
問題はここからだ。
あいつは落ちた俺に気づかず、そのままフードコートを立ち去ろうとしているのだ。
俺の人生の中で五本指に入るくらいのピンチだ。
どうにかして気づいてもらわないと、俺はゴミ箱行きになってしまう。
だけど、俺はあいにく動くことが出来ない。
結局、神頼みしか出来ないのか。
神様、どうかあいつが振り返りますように。俺を失うにはまだ早すぎる、と。
それでも少しだけ悔しかった。俺は所詮シャーペンだという現実を突きつけられた気がしたからだ。あいつを自分の足で追いかけられたらどんなに幸せだろうと思ってしまった。
そんな時、救世主が現れた。
近くにいたおじいちゃんだ。
おじいちゃんは俺を拾い上げたと思ったら、似合わないようなスピードで歩き出し、あいつに俺を届けてくれたのだ。
おじいちゃぁぁぁぁん。ナイスっ!!
俺は心の底からこう思った。
てなわけで、俺は無事ピンチを回避できた。
俺たちってやっぱり運命だったのだと再び実感した。
そんなこんなで、無事俺の居場所にたどり着いた。
俺の居場所は、紫色の箱型の筆箱だった。中身を見る限り、俺は一軍文房具だろうと悟った。
一昔前の前のシャーペンが俺以外に2本、消しゴムが2個などと、物がちゃんと揃っているからだ。
だけど、何より嬉しかったのは、筆箱の構造上、勉強している時はずっと開きっぱなしで使われていない時もあいつの顔を拝めるということだ。
なんて尊いのだ。
俺の心が満たされていく音がした。
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