第2話

「ただいま.お母様.」

クツさんから,お母様に呼び方変えた.

誰も追随してこなかった.帰路.

息上がりなんてしていない.

「お帰り,クツナ.どっから入ったの.

手を洗って?」

「もう実行済みだよ.

ほら.」

手を広げて見せる.

「流石ね.」

ってにこにこ笑ってくれる.

手を洗う位で褒められるなんて,

イージーだ.

自分は,とってもいい子.

自室に変化ごと戻った.

前もって開けてた窓から.

全裸は裏門からも,きつい.

周りもだけど自分も.

「あータツ,居たんだ.」

いつか大きくなって,こいつをぶちのめす.

それだけは思ってる.

「一角の倅と悪い事してないよな?」

「しないよ.」

あいつだけ馬鹿な事してる.

まじで馬鹿だから.

あいつみたいに,あちこちで兄弟作ったりしない.

人狼族も有難がっちゃって…

あちこち駄目な奴らがいる.

そんな事,タツの前では言えない.

タツは,族長と懇意にしている.

頭が上がんないらしいし(自分のせいで?元はと言えばだろ.).

あんな茶色で非力な奴らへ,

だからって自分までもが永久にへつらう必要は無い.

まじでくそ.

「もう餓鬼同士の喧嘩で親が出るのは…」

「分かってるから!」

それ以上は聞きたくない。

超放任から過保護に舵を切り過ぎだっつの.

ごめんなさい…目をキラキラ…ちょっぴり泣いて見せて,

今度は絶対しないから…下から見上げる…

仲直りの握手ね…これからも友だちでいてくれる?

なんて…もう二度とやりたくない.

今日もだいぶ齧ったから…

また呼び出しかかるかもしれない.

うちの倅は綺麗な肌が…こんな有様になっていて…

って血相変わったあちらのお父様が…いらっしゃる…んだよっ!

これだから,柔い奴は困る.

こいつっ遊んでるんすよっ

かなり派手にやってて!

なんて,あいつの親父にチクった所で…

よくやったなって言いかねない感じのファンタジー甘親父.

「ただいまー.ツゥ.

兄ちゃん帰って来たよー.

淋しかった?」

小さい妹が出来た.

可愛くて,苦労はさせたくないと思う.

妹は女の子で,能力がない.

だから,守ってあげないといけない.

兄の務めであり,権限でもある.


「スミ君,よれよれでいらしてるけど.」

え?

珍しいな.

「僕は用が無いから帰って貰って.」

えへへって笑って,母に向けて言う.

「それが…全裸で.」

「えっ!?」

まじか.

「僕が応対するから.

お母様,後は僕に任せていいよ.」

にこにこしたつもりだけど,かなり引き攣ってたかもしれない.

なんかダブった服を持って,裏口に急ぐ.

あいつの方が体格が良い.若干っ若干ねっ。

あれ?

まさかっ…

正面かっ!

「おいっ!あ…

ねぇ…

何で正面切って来ちゃってんのよ…

あぁ…

来てるの?

ねぇ何で?」

「流石に変化体で乗り込むわけにいかないでしょ.」

「違うよっ!

正門は正式な手順を踏まないと来られないんだよっ!

お前,何処の大物大使だよ!!!

しかも,全裸で!そんな大使いねぇんだよっ!

全裸大臣かよっ…馬鹿っ!馬鹿野郎!」

「親父と来た時、何も言われなかっただろ。」

「あんなに怒り狂った物を前にして、

裏口にお願いしゃっすとか言えないでしょーがっ!」

「あぁ…

クツナの母さん,そっくりだね.」

「うん…あぁ…女顔なんだよ…

って関係ねぇ!

今!そんな事!

取り敢えず,ここはまずいって.

そんな恰好で…

いるなよ.あっち…」

ぐいぐい引っ張って,全裸を.

迷いの森まで行く.

あそこだったら視界も限られる。

「もう裸慣れた.」

「お前が慣れようが関係ねぇんだよっ.」

「また,変化で帰るし.」

「おいっ!何で寄るんだよっ!

しずしず帰っとけよ.」

「来ちゃったのに,そんな言い方しなくても.」

「呼んでねぇからっ!」

「追い着いたらいいって言ってたじゃん.」

「追い着いてないからっ!」

キレそう.あぁもうキレてるのか.

『裸っ。』

『裸っ。』

あぁ精霊族か。

「ちょっと、その裸と話があるから、

君たち黙ってて。

あぁ,悪い.場所だけ貸して.

リルいる?」

『いますよ。』

「里で羽伸ばしてて。」

『と言いますと…』

「今、君は必要ないって事。」

『分かりました。』

黙っていた裸体が、

「精霊族ちゃん連れてるの?」

聞いてきた。

「勝手にね。」

「ふうん。」

聞いた割には興味無さそうだった。

無茶苦茶沸騰してたけど…

あのさぁ…

「いつも、お前の事ファンタジーだなって見てるけど…

お前…まじ、それ馬だな。」

「これ見て落ち着くとか大概じゃない?

本体は馬ですもん。

触ってみる?」

「うわぁ…引く…」

「引っ張る?」

「やめろよっ!」

「見せ合う?」

「見せないよっ!!

お前より遥かに立派なんだよ!!!」

はぁ…

馬鹿だ。

「このノリがやなんだよ。

お前と一緒だと、いつもこんな。」

「えー蝙蝠んとこの真面目とつるんだ方がいいって?」

「何だよ其れ!黙れよ!!」

どいつもこいつも同じ様な事言いやがって…

「・・・

悪い。嫌なとこワザと突きたかった。

仲良くやってるんだと思ってたの、こっちだけ?

なぁ、こっちだけなの?」

「親父にチクったくせに。

どの口が言うんだよ。」

「違う違う。

突然、風呂に入って来られたんだよ。」

「え…何まだ一緒入ってんの?

やば…」

「入ってないからっ!」

「まぁいいや。」

「もう、歯形は隠しようが無かったのっ!」

「それな。」

「え?どれ?何?」

「今から噛むって宣言後、噛もうかと思って。」

「大人しく噛まれとく訳ないだろ。」

「だよなー。」

「あーでも来るかもって瞬間は分かる。」

「分かってて甘んじてんの?」

「痛いからやめてね。」

顔見たら、無理矢理可愛い顔作ったので噛みたくなった。

鼻…ピンポイントで。

・・・

「いつも蝙蝠族引き合いに出されるんだ。

別に自分が選んだ訳じゃないのに。

うんざりする。

クラとかチョウとかいい奴らだけど。」

「離れたら、そっちと仲良くする癖に。」

「うるさいな。誰とつるもうが自由なんだよ。

取り敢えず、お前は服を着ろ。

ほら。」

「においする。」

「えっ?くさい?」

うっわ最悪だ。

「いや、クツナに包まれてる感じ。

抱かれてるみたい。」

こっち見てくる感じ、なんかやだな。

「うわぁ…きっしょ。

下から隠せよ!」

「下着は?」

「知らないよっ!

直履きで返すなよ!?」

なんか、余裕あるの持ってきたはずなのに、

変にピタピタで、目を閉じて下向きながら耳をほじる。

「動きづらい。」

「だろうね…

変に話し込まないで、変化で帰れって言えば良かった…

もう、それ脱いで変化で帰れっ!!」

「見たいの?」

「違うよっ!!!

こっちの服を粉砕して変化すんなって言いたいのっ!」

「せっかくだから、座って話そうぜー。」

「もう話す事なんて、こっちは無いから。」

「・・・

じゃあ、あれは?

吸血んとこのキュが…」

「何?」

見下ろしながら、奴が真剣な顔をしてるのだけが気になった。

「取り敢えず座って。」

「同じ高さになると噛みそうになるんだよ。」

「噛んでもいいから、こっち来て。」

「噛みつきたくなるから、こっちでいんだよ。」

「噛ませてやるから、こっち来てよ。」

「一角の癖に。」

「今関係ないだろ。」

「お前の言う事聞くのが嫌なんだよ。

馬鹿の癖に。」

「馬鹿じゃないからっ。」

「もう帰る。

服は、もうお前にやる。」

「これ…立ち上がりづれぇっ…

なぁっ!おいっ!ちょっとっ!

待ってっ!待てよっ!!」

ここ…

実は、あまり得意な場所ではない。

長居は無用だ。

おかしな気持ちを思い出す。

背を向けると、

もう言ってしまえって態度が聞こえた。

目の前が揺れてる。

心と一緒に。

息が出来なくなる。

はっはしながら座り込む。

早く、ここを抜け出さないといけない。

遠くで馬鹿の声が聞こえる。

トラウマが鮮明に揺さぶりをかける。

「捨てられた子」

違うっ!

違わない。

何も違う事がない。


角で刺されるのかと思った。

腹の下に長い角が入って、空中に持ち上げられる。

そのまま、すぽんって跨ってしがみ付く。

お日様のにおいの

ふぁあふぁさが皮膚に当たる。乗り心地…いい。

「ここ…場所が…駄目…なんだ…」

はふはふしながら言葉を出す。

上手く吸いにくいから、自ずと出しにくい。

『そうか分かった。上がるから掴まって。』

森の木々が上昇を阻む。

それでも尚…翼広げて踏ん張るスミが見えた。

なんか…

でっかいなぁ…

こいつ大きく見えんな。

『くれるっつったから粉砕して…ごめん。

どこに降ろしたらいい?

大丈夫なの?』

「お前が…変な事…言い出すからだろ…」

『俺じゃないよ。

キュがって前置きしたって。

あいつは…

龍族というか…王族を目の敵にしてる.

だから…

あんな事言って貶めたいのかと…

思ってて…

冗談でも…良くないよな.

今度聞いたら…ただじゃ置かないから.

安心しろよ.

・・・

お前が足を止めてくれたら良かっただけなのに。

馬鹿だったな。』

「言ってんじゃん…」

『さっきのだけね。』

『クツナ見てる?』

「見てる・・・」

『弱ってんな。』

え…

『見えてる?』

「見えてるよ.」

『ほんとに?

見えてる?

急行しないといけない時は仕方ないけど

俺らは、この速度で周り楽しんで移動してる。』

「うん.」

『行動って無数に派生する事だと思うんだ。』

「うん.

うん…」

何が言いたいのか分かるような気がした。

『綺麗な世界に生きてる。』

「うん…」

ひとしきり空からヒト型で眺めた。

世界を。

生きてる世界を。

スミの背から。


『めっちゃ上から見てみようぜっ!』

おぉ行こ行こ言えてたの最初のうちだけ。

上がる上がる

上がる上がる

「ちょ…ちょっと息苦しい。」

多分、ヒト型で弱い。

手…しがみ付いた手が緩む…

『おいっ大丈夫かっ!?』

「駄目だ、この姿…」

『高度下げるからっ』

ちょ…急降下過ぎる…

この急激な気圧変化も生身に堪える…

まじでキツイ…

「辛い.

しんどい

ヒト型弱い…

吐きそう…」

『え”…』

横向きながら、後ろ側に流れてった。

モザイクかけてて…

「ちょっとしっぽにかかったかも…」

『うそぉまじかぁ…』

「ふわふわでもふもふ過ぎんだよ!

控えろよっ!飛びつきたくなるだろ!」

『持ち前の物掴まえて無茶言うなよっ。

戻って来た?』

「少し…」

出したし、下がったし。

『もう大丈夫?

どこに降ろしたらいい?』


「屋上でいいや.」

『…屋上?

もっと別の場所が良くない?』

「もう,しんどくて動けない…」

『…あぁ…

まぁ…うん.

ちょっと上の方から落とすから,

受け身とって.』

「ちょっ!

こんな高度で無理って.

もっと下っ.

どっか折れるって!!!」

『もう,これ以上下がれないからっ.』

「無理っって!

こわっ!

振るなってっ!

おいっ!

まじで!!!」

あぁっ.

「いたーっ!!!」

ヒト型に鞭打ちやがって!

『えぇつ!

大丈夫かっ!?』

駆け下りてくれたスミに悪態をつく.


一瞬だった。

よく分からないうちに状況が一変して…

一番良くない地獄に投入された感じ。

最初はよく分からなかったけれど。

最悪の最悪に遭遇してる。


襲来と捉えられたのかもしれない。

やばい。

変化体が城の防御システムに触れたんだ。

このままじゃ、まずい。

「父上っ!」

初めて出す言葉に自分が驚く。

『息子から離れろ。』

「助けてくれたんだ。

違うんだ。」

届いてない言葉が。

離れてって、スミに言えば、

離れた瞬間、攻撃が飛んでくるかもしれない。

でも、この構図が興奮させているのだろう。

ヒト型の自分が弱弱しく横たわり、変化体が傍にいる。

「スミ、離れるなよ。

間入るように、ゆっくり起き上がるから。」

『起き上がって大丈夫なの?

もう覚悟は出来てるから、何発かは凌ぐ予定。

あとは、お前が助けろよ。

威圧感凄い…ビリビリしてて…

これが王…震えてないのに震える…』

「こっちの声が届いてない。」

『あぁ…でも、お前の存在は分かってる。

王の前に父って感じだね。

この姿で降りるのやばいかぁって思ったんだよなー。』

「ならっ何でっ」

『クツナが心配だったから。

あぁ…タイムリミット。

悠長に喋ってる暇ないぞ。

あれ…お前,再現できる?』

炎の弾と氷の弾が見えた。

「分からない.

やらずに来たから.

タツが出来る事を

俺が出来ない訳ない.」

正当な血筋だ.全て引き継いでる.はず.

『今やれる?相殺狙える?』

「お前…

無理だよ.急になんて.

しかも今,変化体にすらなれないと思う…

撃たれる前に,どうにかしないと.」

『多分、正確に当ててくる。

ほら、クツナ見てみろよ。

お前の父さんお前に対して一生懸命だ。

ちょっと御ふざけが過ぎたかぁ。』

「見てる.口数多い。」

『非日常感からな。

あれだけエネルギー込めていってるのに、

大きさが変わらない。

寧ろ小さく凝縮させていってる感じだ。

あんなの見た事無い。

平和な世界に生きてたな。

さて、お前は高みの見物でもしてろよ。

父の愛と友の愛を感じられるんだ。

涙が出る程、安くないだろ。』

「何てこと言うんだよ。」

『あとは親父にクツナがうまくいっといてくれよ

全面戦争にならないように.

窮鼠猫を噛むって言うだろ.

俺ら美しいだけじゃないはずだ.

時々予知夢を見るんだ。

いつだろうって思ってたけど多分今の今だ。

全てよろしくな。』

そんな…よろしくだなんて…

出来る訳ねーだろっ!!!

表情は分からないけれど,

スミは首を傾けた.

瞳は,何処までも澄んでいて…

綺麗だった.生き生きとした,それだった.

『だから遺伝子残してる人狼んとこに.

多分,大丈夫.

同族は難しくてな簡単にはいかないんだ。

妻取りになると大袈裟過ぎて。』

ん?あぁ…あぁ…

「スミー死んだ?」

『まだー。』

「違う。死んでた?予知で。」

『分からない.切迫してた.』

「たら、まだ、俺が出る余地あんなー。」

『んー?』

今頑張らずして、いつ頑張るんだっよっ。

寝てられるかっよっ。

ただ…

タメが長過ぎる.

おかしいなって感じてるんじゃないだろうか.

表情が読めない.変化体.

走ってタツの前に行くか.走れるのか俺.今.

その前に飛んでくるか.

「スミ,俺投げられる?」

『えっ!?

もう俺その瞬間死ぬじゃん.』

「じゃあ背中乗せて.」

『またぁ?』

「対角線上で動くから.

やられる時は共に.友よ.」

『面白くねーんだよ.

はいよ.』

首を下げてくれる.

恐らく,このポージング.

スミは非情に恐ろしいはずだ.

視線を外し…相手が,どんな状況か分からない.

俺もスミの顔を見ながら,首にしがみつく.

多分,タツを見ると,助けを求めているようにしか見えないはずだ.

だから,見れない.

首をもたげてくれる.すとんと尻がハマった.

「近づける?

寄せられる?

密着してるよ.ほら.」

『分かるよ.

生きてるからな.

俺もノルけど…』

近付けば近づくほど

熱くて寒い.

エネルギー量が…

酷い.地獄が近付く.

『もう無理だ.

こっちが駄目だから,

お前…

下がろうか.』

「いや,いい.

有難う.

ゆっくり降りるよ.」

燃え尽きそう.息も肺も…燃えていくよう.

火力の火力が強いのか.

受け手の問題なのか.

ヒト型弱いな.

だからって今,変化できそうにない.

「父上っ.

大事な友ですっ!」

友を背に庇いながら叫ぶ.

「あちぃな.でも,さみぃな.

変化解けば逃れられたのかもしんないけど,

変化体の前で意地でも変化体でいようとしたのは…

ただのくそ馬鹿な意地かもしんないなぁ.

しかも乗せてるとはいえ近付くなんて正気の沙汰じゃねぇ.」

えっ!?

背中から聞こえた声にビビる.よく喋ってんな…

「お前っ.

大丈夫か.」

「クツナが出来るのに出来ない訳ない.

嘘嘘.ちょっと姿保つの限界.

移動も結構急いでて…消費してた.

もういいや.」

「よく無いだろ.」

先に崩れ落ちたのは,スミだった.

ヒト型弱い上に一角だ…

駆け寄る俺に,

「おぉおぉ.」

って後ろから,よく分かんない声掛けをしてきた.

「友人ね.父上は理解してるよ.」

斜め上からタツの声が聞こえる.

「おせぇよぉぉぉ…」

こんなんなるまで…

「俺大丈夫だから,スミ抱えて俺の寝台に移して.」

「客人用では無くて?」

「もう,どっちでもいいからっ!」

もう,そんな力残って無いんだよっ.

スミを軽々抱えて背を向けた.

父上が.裸体が裸体を抱えてる…

俺…今,あいつ狙えないや…

よっわ…

はぁ…しんど.


自室で,着替えて…

寝台には何も無い事を確認する.

客間か.

よろよろ移動して,

客間に入ると,横たわるスミと,

傍らに立つタツが目に入る.

特に苦しそうな表情をしていない所が…

まだ…良かった.

「いつから気が付いてた?」

「お前らが,ひそひそし始めた頃から.」

「っ!なら何で!」

こっち一個も向かず話してたタツが,こっちを見た.

「色々,目的はあったよ.」

キッと見て,

「何だよっ!俺らが,どんな思いでっ!」

食ってかかりたかった.

「一つは,体が鈍ってた.」

・・・

「一つは,面白そうだった.」

・・・

「一つは,誇示してみた.」

・・・

「そうだ,勝てると思えた?」

どの理由も,おかし過ぎて…くそったれ.

「俺らは,まだ子どもなのに!」

「そういう時だけ持ち出してくる?

ぎりぎり子どもだからって,逃れられる?」

逃れられ無い?

「ははっ.

スミ君のお父様にお話してくるよ.

親として.

変化体で突然襲来すると,何物たりとも許す事は出来ないんだよ.

今回は特例だ.良かったな。」

「俺が…俺の具合が悪くて…

頼んで…あぁいう事に…」

「だとしてもだ.

見せしめもあったか.一つ.

秩序は無駄に無い.」

視線だけ…視線だけやって…

口を噤んでた.

何も…何も…出せないまま文字通り見送る。


ベッドとソファと机がある客間で…

机に備え付けの椅子を引っ張ってベッド脇に置く.

座って…スミの顔を眺める.

若干熱波で虹色の髪が縮れてる.

どうしよ.切ってやろうか.

机の上から鋏を取る。

黙って切ると良くないか.

「髪切ってやるよ.」

「何で?」

目が開くと同時に手を掴まれた。

ほあっ!

「いつから起きてた?」

「実は,王とお前の会話から.」

「そっか…

なんか色々悪かったな.

髪熱風でやられてるよ。

切ってやろうかと思って。」

「資格は?」

「そんなの有る訳無いよ。」

「あっそう。」

目を閉じて無防備なスミの髪を切ってやる。

ぱらぱら、かつて虹色だった髪が

色褪せたまんま落ちてく。

静かにスミが話し始めた。

「実はクツナの変化体も少し怖いんだよ。

やっぱ龍族って感じで。

出来たらそれで道端ばったり出会いたくない。

一角未熟な一体ごとき、どうだって良かったはずだ。

だけど、全てお前のためにだったと思うよ。

いい親父さんじゃん。」

気軽に言うなよ…

床に投げつけた鋏が、それなりな音を上げる。

しまった.絨毯外れた大理石に当たったみたいだ.

お母様…というか

一夜城をこしらえたタツから…

異常時には言われるのかもしれない…

「お前が聞いた噂通りだよ。

俺を捨てたんだ。

気ままに拾って…

絶対に許せない…

許せないんだっ!」

一気に吐き出して顔を見ると目が合った。

「確かに良くないけど…

今は大事にされてるんだろ。

綺麗なだけの世界は無いよ.

一点の曇りもなく澄み切った世界なんて…

やった事いつまでも引きずらなくちゃなんないの?

今を見る事出来ない?

クツナ、今が見えてるか。」

今…今今今っ。あんなのはデモンストレーションだろうがっ!

「うるさいっ!!!

今が見えても、例え見えて無くともっ

進んでかなくちゃなんないんだ。

馬鹿の癖にっ。

こっちに色々と言ってくんなっ!」

ふざけて言ってるつもりはないけれど、

明らかに顔つきが変わった。スミの。

わざわざ座り直して…

少しもビクつかねぇからなっ.

「それも…

透けて見えんだよ。

お前俺を下に見てんだろ。

能力劣ってたら駄目なのかよ。」

もう引けない。こっちだって。

「っ!

お前だって、人狼を下に見てる!」

立ち上がって睨みながら見返す。

勢いで椅子が倒れた感じがした.

「何処が?

何時?

尊重しつつ付き合ってるよ。

同意の上で何が悪いの?

無理矢理襲ってるって思ってる?」

腹立つ。スミの癖にっ。

「うざい!

しつこい!

キモいんだよ!

仕方ないじゃないか。

上か下かって見るしかない気持ち分かってたまるかよ。

じゃなきゃ!

自分自身の価値が分からなくなる気持ち…

分かんねーだろ!!!

あんな溺愛されて甘々で生きてきたお前に!

気持ち分かられてたまるかよ!!

帰れよっ!

もう二度とくんな!」

なんかヘロヘロで息上がりながら興奮だけしてて…

また、諭すような感じで口を開いてきた。

黙って睨みつける。

怯む事無い様子が嫌だ。

黙って聴くしかない自分も嫌だ。

「お前らの血族が、そうならないような世界を

想定してくれたんでないの?

どの物であっても価値は平等に何もしなくとも存在してるって。

確かに強さで通した面もあるけど、それを出来るのが龍族しかいなかった。

弱ければ虐げられていいって世界を作り変えてくれたんでしょ。

また,上か下かって世界を戻して見せるの?

ジュニアだけが分かんねーって皮肉だよな。

あぁ,そうだ.

苦しんでるお前を危険顧みず助けてやった、この俺にっ

まだ、礼の一つも返せてねぇなぁ、お坊ちゃま。」

嘲笑うかの表情だったら、また逆上して言ってやれたけど、

何故か愁いを帯びていて、一旦下を向くしかなかった。

くっそ…

こういうとこも腐れてる。

「どうもっ.」

わざわざ見て言うのも癪だから,

エメラルドグリーンの綺麗な模様の絨毯を眺めながら.

北の方の原産って聞いたような聞いて無いような.

「誠意がたんねーなっ.」

戻ってきた言葉に何でだよって,

それだけ思って顔上げつつ叫ぶ.

「どうしたらいいんだよっ!」

「今まで通り!いいっ?

忘れてやっから忘れろよ。」

ファンタジーがファンタジー感たっぷりで笑う。

「えっ?あっ…

齧っていいの?」

「出来たら、それやだ。」

こういう時どうすんの?握手?

分かんないけど,一瞬でベッドに飛び移って,

スミの隣で一緒に胡坐をかく.

ちょっと上半身前のめりに傾けながら横向いて,

何気に言ってみた.

「お前、人狼んとこ、ばらまいたのどうすんの?」

「ん?

えー?

お互いに好きだからいいんだよー。」

何を思い浮かべたんだか表情が馬鹿のそれだ.

「対象1体?」

「そそそ。」

「ふーん。ちょっと大きく勘違いしてたかもしんないわー。」

「だろー?

今度、見に来いよー。」

どこになにをっ!?

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