小さくは無くなった魔王様ジュニア

食連星

第1話

「スミっ.

また,人狼族に行くの?」

「クツナ,もう離れたから面の皮外せよ.

化けの皮か.」

「おい.馬鹿なの,どうにかしろよ.

見掛け倒しが.」

「一気に悪くなるのやめろよー.」

「人狼んとこ,皆,茶色.

どっちかって言ったら,お前のとこ一角に行きたい.」

「綺麗処揃ってるもんね.」

「そうそう.」

何で,楽しくもない人狼族の里まで行かないといけないんだ.

楽しいのは,スミだけ.

何で,あんな茶色一辺倒の奴らを食い漁るんだろう.

親の代から,こだわってるらしいけど.

俺らは俺らの代で,生きたらいいと思うし.

引きずられるなんて以ての外で.

詰まらない.


「姿変えてさ.

一気にいこうぜ.」

「目立つんだよ.」

「お前がだろ.」

「お前も大概.」

「お前呼ばわりすんな.

噛みつくぞ.」

「この間のとこ,まだ治ってねぇ.」

「あぁ,それも言いつけただろ.

お前んとこの親父に.

こっちが被害なんだよ.」

「違う違う.

こっちが被害だったから,そうなったんであって.」

「うるせぇ.」

「いだっー.」

「女にやられたって言えよ.

姿変えてないから痛くないだろ.大袈裟野郎.」

「龍族は歯並びも極悪.」

「何っ!?」

「何でも.」

綺麗な見た目だから,一角族のジュニアとつるんでる.

評判は良くない.

ちょっと頭が弱い.

虹色の髪はふわふわで,額から突き出た角が鋭い.

ファンタジーな見た目で,少しいいなと思ったりもする.

自分は髪も瞳も黒一色の見た目は,龍族のそれだ.

顔立ちは蝙蝠族の母から引き継いだので,余計見目麗しい.

自分で言っちゃうところが,なんか楽しい.


姿変えて行ったら,すぐに辿り着くところを…

難所を越えつつ山越えしながら人狼族の里へ.

スミの野郎,馬鹿丸出しなんだよ.

「じゃあいってくんね.」

ヘラヘラ阿保面.

「何が楽しいのさ.」

「お前は知らないね.まだ.」

「馬鹿にすんな.お前じゃねぇ.」

「いだっ.」

齧ってやった.

さっきとは場所ずらしたから,まだいいだろ.


入り口にいると,族長が出てくる.

自分は肩書きも無い.

何にも無い.

ただジュニアってだけ.

にこって笑って,

「いつもお世話になっています.」

先手必勝,先に声を出す.

「入り口で止まらずに中へどうぞ.」

穏やかに言う言葉は重みがあって,

茶色茶色と軽んじるけれど,この物は別格だと.

生半可,長ではないと感じる.

幼い頃、この方とお会いした。

里内の様子も記憶がたがわなければ知っている。

そうだ、こいつらの眷属狼を喰って

自分は永らえた。

謝罪のためにタツと来たんだ、この里に。

弱い奴は喰われる。

「知人の用事が終わるのを待っていますので.」

ゆらっと斜めを見ながら,また笑って見せる.

用事って…本当屑用だけどな.

「わざわざ足を運んで頂いて,申し訳ないです.

友人が戻れば,その足で帰りますゆえ.」

また,にこにこ笑って見せる.

早く長は奥で,ゆっくり茶でもすすっとけよ.

「用心棒代を弾みましょう.」

そう言うので,

「また御冗談を.こちらの屈強な戦士が出ていますので,

当方の出番は皆無かと…」

振り返って,入り口を見張る物を,ゆっくり見回す.

こいつらが報告したな.

犬は本当に困る.


お?

「あいたっ…」

「まだまだですね.魔王のぼん.」

肩に手刀が当たった.

空気の流れで分かるんだよ,その程度.

出来ないふりをするのは身を守るためでもあるんだ.

いざという時以外は駄目な奴だっていい。

「急に背後取るとは酷いですよ.

もうーやだなー.」

肩を撫でながら,こういうだまし討ち本当に嫌いだと思う.

スミに思いっ切りやってるけど,

今度は噛むぞっていけばいいのか.

避けられると癪だから,やっぱいきなり行きたい.

「ご友人は,すっかり楽しみに興じていますが…

ぼんもどうですか?」

「えっ?あー…

気になる物がいるので,堅く生きますよ.」

龍の血を落として堪るか.こんな奴らに.

女の顔が判別つかない時点で終わってる.

特別は,この種族にいないんだ.

「母殿の種族ですか?」

あん?

首を回してしまった.

「母は慕っておりますが,娶りとなるとそうも言えませんよ.」

「蝙蝠族は魅力的ですね.」

何を含むのか分からない会話にゲロが出そう.

龍族と蝙蝠族の繋がりが強過ぎだから

分散させろって事が言いたいのか.

ひいては人狼とも懇意にせよと…そう言いてぇのか.

まじで吐き散らかしそう.

ゲロる。ゲロれば。ゲロ…ゲロgr…

爺さんとの会話には飽きたんだよ.

爺の出る幕は無いから引っ込んどけって。

なんだよ、さっさといけよ。

そう伝えたい.

早く戻れよ.おっと目がいってたかも.

また,にこにこ笑ってヘコへコする.

「人狼の里で,ゆっくり過ごして欲しいですね.」

「ゆくゆくは.」

にこにこ笑って…顔面攣るんじゃないかと思った.

お父上によろしくお伝えくださいと言いながら,

背を向けられた.

所詮あの程度.背後から襲える.

ふっと笑えた.


門番から見えない場所に腰掛ける.

「いるー?」

『いますよ.』

精霊族がくっついてきている.

多分,生まれた時から一緒.

リル.

小さくて小さくて点のような大きさ.

子どもしか見えない.

大人になったら,きっとこの子は見えなくなるんだろう.

「何で,あんな茶色が好きなんだろう.」

『持って無い物が欲しくなるからでしょうか.』

「茶色なだけで,非力だ.

人狼族.

お前たちも.小さいだけで暇つぶし位にしかならない.」

人差し指で押してみるけど,

何が何処にあるのか分からない.

弾力が無い.

その点,同じ大きさだったら楽しみようがあるのかもしれない.

『本当に気になる物が?

折角ですから,一緒に楽しんで見ては.』

リルまでもがおかしな勧めをする.

「本当にそう思う?どう思う?

龍族は1人を愛し抜くんだよ.」

『でも,蝙蝠族はそうではない.』

「あぁ,そうだけどね.

声はかけられるよ.」

人魚族のカイとか,蝙蝠族のチョウとか,

いいなとは思うけど…

いまいち決め手に欠けるってか…

あちこち手を出して齧った後,

やっぱ違うなってしたくないってか出来ないってか.

そいつらごと全て捨ててしまうんじゃないかって.

はぁ…

少し背中を倒して空を見上げる.

何度,こうして空の色を雲の色を見たのだろう.

毎日,同じ色で同じ色では無くて,

手前の状況は相変わらずで,周りだけ変化していった.

地面の上で…一人…

ちょこちょこ,そうかなって感じはあったようだけれど,

キメラは強いとタツが証明してみせた.

自分の体で.龍族の強さと,蝙蝠族の能力を持ってる.

あちこちで,かけ合わせが出て来てる.

望んでか望まざる上でかは分からない.

自分は蝙蝠族の能力を手に入れてるから,

他に入れ込むとしたら…

どこがいいんだろう.

強さが欲しい.ただ,強さが.

「弱い血は入れないよ.

リルとか以ての外.」

そう言うと,何にも言われなかった.

そもそも体格差があり過ぎて,

どこをどうしたら良いのかも分からない.

綺麗なだけで言えば,一角族とかもいいけど,

あいつと仲間になるなんて…

ちょっと鳥肌立つ.


「定着率が悪いんだよなー.」

そう戻って来たスミが言った.

「何の?」

「着床率.」

「何で?」

「多分,同族では無いから.

異物認定されるんだと思う.」

「入れ込んでるのに?」

「うん.

だから遊べるんだけどね.」

「下衆野郎.」

「褒め言葉.」

「馬鹿だな.」

真正馬鹿.

「だけど,有難がってくれるよ.

どう見積もっても,一角の方が上位の能力持ちだ.

体格もいいし美しい.」

「ぶっ飛ばすぞ.」

「龍族には負けるけどね.

そんなとこ張り合ってても仕方ないでしょ.

遊ばない奴と張り合えない.」

「何っ!?」

「褒めてるんだよ.

愛する人と添い遂げるんでしょ.」

馬鹿にされてるようにしか受け取れなかった.

むっとした顔に,おべんちゃらを重ねられる.

「ほら,お前は蝙蝠族の血も入ってるし.

顔立ちもいい.

クツナだったら有りだとは思うよ.

遊んでみる?」

こっちは願い下げだ.

肩に回された手を齧ると,

「いだーっ!」

ってお決まりの台詞を吐いた.

「どこで何貰ってるか分かんない奴とは勘弁なんだよ.

汚れが.」

「酷く言うなって.

統べる王の息子が,そんな口悪くて良いのかよ.」

「てめぇに言われたくない.

顔に触れてくんなって.控えろよ.」

「連れて歩くには本当にいい.

仲いいんだよねって言うだけで

寄ってこられる.

いいアドバンテージだよ.」

くそ正直過ぎて嫌になって来た.

「そういう所,駄目だ.合わない.

暫く,お前と一緒にいない.」

姿を変えて,龍の姿でタツの城まで戻ろう.

「いつまでっ!?

お前と一緒じゃねぇと入れて貰えるか分かんねぇ!!!」

叫び声が、もうまさに馬鹿のそれだ。

スミって,まじでくそだな.

遥か後ろで多分綺麗なユニコーンへ姿を変えた様な気配がした。

『女に?』

『里にだよっ!』

『追い着いたら考えてやってもいい。』

『絶対だな!?』

絶対に追い着かない。空を駆ける能力も一角はそこそこ。

釣り合わないのに,目をかけてやったんだ.

こっちが,降りてやってたのに.

自惚れるなんて,典型的な駄目な奴.

そんな奴からいい様に言われるなんて,まじでくそ.




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