一章③
父との再会を半ば諦めていた春菊だったが、天佑が協力を申し出てくれたため、心の中に希望の火が灯ったような気分になる。
春菊は機嫌が良くなり、お茶の残りを飲み干してから静水城の件を一気に話してしまう。
「僕の山水画の問題についてなんだけど、墨が邪気に反応して勝手に動いちゃうようになったんだよね」
「制御は一切出来ないと?」
「制御出来るんだったら、宿から追い出されずにすんだよ!」
天佑は春菊の話を理解してくれたのか、神妙な表情で頷く。
「そういうことですか。先ほどの貴女の話とあわせると、静水城内に邪気の元凶があり、その影響が白都の広い範囲に及んでいるということになるわけですね」
「今の所そう思ってる!! それで、少しやばいなーって思ってるのが、邪気––––悪い”気”の流れの影響が僕の画だけにとどまらない点だよ。これってたぶん人体にも悪影響があるんだ。邪気の発生源には
ここまで話すと、天佑は心当たりがあるのか端正な顔を歪めた。
「蠱……? それはまた厄介な……。実は静水城では最近、病に倒れるものが後を絶たないのです」
「やっぱり実害が出ているんだね」
「しかも、一週間ほど前には皇帝に仕える風水師が惨殺され、代わりの者を探していたところでした。偶然なのではないかと考えていましたが、貴女がおっしゃるように、都に溢れる邪気と関係がありそうですね」
「確かなことは分からないけど、今の邪気の量は僕が都に来てから一番多いし、山水画がまともに描けなくなっている期間も長い」
「城内で病気が蔓延している期間もかなりの長さです」
「そっか、静水城内の偉い人たちが狙われてたりしないといいね」
「……何やら心の内が
「親戚かぁ……。君が信じるかどうか分からないけれど、もし邪気の発生源を突き止められたなら、僕がそれを封じれるかも」
「ほう?」
「でも、僕は一般庶民だからあの中に入れないし、どうすることも出来ないや」
あんなに警備が厳重そうなところに入れるわけがないし、自分には何もしてあげれることはない。
それに都に来て思い知ったのは、興味が向くまま何にでも首を突っ込んだなら、十中八九痛い目をみるということだ。
邪気については他人任せにしておくのが正解だろう。
しかし天佑は春菊の話に食いついてきてしまった。
「もし城内に入れたなら、どうにか出来るのですね?」
「たぶん。でも、静水城内はものすごーく広そうだから、もし入れたとしても邪気の発生源を探るのは時間がかかると思うよ。だから僕がどうにかするよりも、新しい風水師を雇ってじっくりと”気”の流れを探ってもらうのがいいのかもしんない」
「風水師は今年に入ってから、既に三人も不審死をとげているのですよね」
「三人は多いなぁ」
「去年は五人おかしな死に方をしています」
「全部で八人!?」
「風水師の肩書きを持っていると、狙われやすいのかもしれません」
なんだか一気に不穏な話になってきた。
春菊は急激にやる気を失い、視線を天佑の顔から、その後ろの青空に向ける。
「……確かに静水城は外部の者が気安く入れるような場所ではありませんが、幸いにも私は現皇帝の従兄弟にあたります」
「へー、凄いね」
「城内の調査のために、春菊さんになんらかの役割を与えさせましょう。追加の代金をお支払いしますから、どうか城内の邪気を封じて下さい」
よほど焦っているのか、天佑は春菊の方に身を乗り出す。
たぶんこの件は少し顔を突っ込むだけで、大事に巻き込まれるだろう。
だけど天佑には散々世話になっているので断り辛い……。
「分かったよ。僕の山水画のためにも、頑張って邪気を封じ込めるとしよう! で、いつから静水城に行ったらいい?」
「そうですね……。貴女の話によれば、邪気の濃度によって墨の暴れ方が大きくなるのでしたね。だから静水城内で山水画を描くのは難しいわけで……、ちなみに花鳥画は得意ですか?」
「花鳥画って顔料を使って描く画のことだっけ?」
「ええ、そうです」
「都に来てからはお金が無くて山水画や彩色しない草虫図をよく描いていたけど、崑崙山には仙人や道士が作った顔料がいっぱいあったから、花鳥画みたいなのもいっぱい描いていたよ! でも、ここの人たちが見て良いと思ってくれるかどうかは分からない」
「貴女が描くものなのですから、大丈夫でしょう」
何が大丈夫なのかは不明だが、天佑は今日の
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